某国立大学建築学科卒業。『眼球堂の殺人~TheBook~』(講談社ノベルス、のち講談社文庫)で第47回メフィスト賞を受賞しデビュー。著書に『LOST失覚探偵(上中下)』(講談社タイガ)、『アールダーの方舟』(新潮社)、『暴走』(KADOKAWA)、「猫又お双と消えた令嬢」シリーズ、『災厄』、『CRISIS公安機動捜査隊特捜班』(原案/金城一紀)(角川文庫)、『不死症』、『幻屍症』(実業之日本社文庫)などがある。
(シリーズ第1作『眼球堂の殺人』より本文引用)
38歳。「只の人」という名前とは真逆の、
どこをどう切っても只者ではない人間だ。
「ぼさぼさの髪。あご一面の無精髭」 「べっこう縁の眼鏡の奥には色素の薄い大きな瞳」 「学生だった20歳の頃、当時知られていたある未解決問題を証明」 「今後の日本を背負う数学者だ、とまで言われていた」 「28歳の時、彼はなぜか、突如失踪」 「どこへ消えたのか、親しい友人も、家族でさえも、知らなかった」 「心を病み、死を選んでしまったのではないか?」
だが、幸いなことに、その心配は杞憂だった。
すぐに、十和田の噂が……
「ニュージーランドの学会で共同研究発表」 「モンゴルの学者の論文に共著者として彼の名があった」 「オーストリアの社会福祉施設に彼から寄付があった」
そんな噂が、世界中から聞こえてきたのである。
やがて現在、何をしているのかが明らかに……
「鞄一つで世界中を旅し、訪れた先で各地の数学者の家に
無理矢理押し掛けては、共同研究をしているらしい」
いつしか世界の数学者たちは、
十和田のことをこう呼ぶようになっていた。
「放浪の数学者」
そんな彼のもとへ、世界を代表する建築学者・
「小生の新居『眼球堂』をお訪ねいただきたい。日程は三日間。各界の才能にも多数おいでいただく。きっと貴殿も満足するだろう。」
宮司司とは……!?
宮司司は警察庁キャリアで階級は警視。
16歳年下の妹、百合子はT大学大学院在学で
十和田只人のファンである。
新キャラクターである彼が、ある目的のため、
Y市Y湖畔の奇妙な建築物「ダブル・トーラス」
に十和田只人を訪ねて車を走らせるところから、
第2作『双孔堂の殺人』は始まる。
(以下、本文より)
最後に、百合子はちくりと言った。
「(中略)それより、そんなに私のことばかり気にしていると、
いつまで経っても結婚できないままになっちゃうよ。
……ねえ、聞いてる? お兄ちゃん」
俺──宮司司が、ひとり十年落ちの車で向かっているのは、
Y湖畔に建てられた「ダブル・トーラス」と呼ばれる建造物だ。
元々は美術館として設計されたその巨大で奇妙な館は、
現在ある男の私邸として使われているという。
男の名前は、降脇一郎。
善知鳥神について「眼球堂の殺人事件」で十和田はこのように語っている。
「善知鳥神を一言で表すならば、これぞまさに『天才数学者』だ」 「そう。それも、僕が十人束になって掛かっても敵わないくらいの、まさに『千年に一人の天才』だ」