講談社文庫

□2016年01月号目次

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上田さんは幕府の役目に就いている主人公を好んで描かれていますが、その理由は?

上田

時代小説にはたくさんの大作家が先達(せんだつ)としておられます。割りこんでいく新規参入の身としては、今まで書かれてない隙間、あまり知られていない役目を出すというのがちょうどよかったんですね。「奥右筆秘帳(おくゆうひつひちょう)」(講談社文庫)では、どう考えても剣戟(けんげき)にはほど遠い、筆で生きる役職の人物、立花併右衛門(たちばなへいえもん)が登場します。読者さんの予想を裏切って、その人物をどう剣戟に巻き込んでいくのかと考えるのは、書いていて楽しいことです。剣戟は時代小説の華ですからね。もっとも、最初にその手法を使ったのが、「勘定吟味役異聞(かんじょうぎんみやくいぶん)」(光文社文庫)でした。算盤(そろばん)の世界の人物が闘うならば、どうなるのか。そう考えて始めたシリーズでした。

──

物語を考えるときは役目から入るのですか?

上田

ええ。その役目からいちばん縁遠い人物像を設定しようとしますね。「勘定吟味役異聞」では水城聡四郎(みずきそうしろう)は算盤を使ったことがないというところから始まりますが、そうすると職制や、お金のしくみなどを解説するのが自然になり、僕も理解できるし、読者さんにも説明しやすくなります。仕事ができる練達(れんたつ)の人物だと、細かい説明は不要になってしまうじゃないですか。

今明かされる上田流小説殺法!

上田

知らない人間を物語につっこめ、というやり方です。「奥右筆秘帳」の場合は、練達の併右衛門と何も分からない若い柊衛悟(ひいらぎえいご)を組ませて、二人主人公制をとってみました。最初は安楽椅子探偵(あんらくいすたんてい)のつもりだったんですが、書いているうちに違う話になってきましたね(笑)。出世のためには何でもしようかという嫌らしいオヤジを書きたかったんですけどね。気がついたら、娘思いのすっかりいいオヤジになっていました。

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