講談社文庫

□2015年11月号目次

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既存の時代小説とは一線を画す『赤刃』。死の淵を垣間見た長浦京だからこそ、書きえた作品だ。

クールでスピード感あふれる作風は、彼の計り知れない可能性を感じさせる。

著者のことば

 入院中のトイレで便器を見下ろした時に『赤刃』は始まりました。

 日々繰り返していた下血。ライトに照らされたその赤色の鮮やかさを、人の血の美しさを、病気の痛苦とは切り離して純粋に伝えたかった。さらに病院では、同じフロアーの患者が週に一人は亡くなりました。末期のベッドを囲み、家族が「目を開いて」と呼びかけている。脈の消えた女性の横で「おかあさん早過ぎるよ」と泣いている。そのすぐ近くを通り、看護師が笑顔で検温にやってくる。「メリーさんのひつじ」を奏でながら電動ワゴンが食事を運んでくる。自宅へ運ばれてゆく遺体の横で、皆がテレビや本を見ながら消灯までの時間を過ごしている。死と死がもたらす喪失が、平凡な日常にあまりにも完璧に溶け込んでいました。嫌でも、命とは、生きるとは何かを考えるようになりました。

 そんな思いを僕なりにエンターテインメントで包み込んだのが『赤刃』です。義理人情や武士道など、時代劇的な虚飾はすべて剥ぎ取りました。生類憐みの令発布までの江戸を覆っていた血腥さと暴力主義を、男臭さ泥臭さを極力排除し描きました。たぶん今の時代小説というものが、どうにも気に入らないのだと思います。予定調和を求める固定ファンのためのものなんて偏狭なレッテルを引き裂いて、たまらなく胸躍らせるものに引き戻したい。

 気概ばかりが先走り、空回りも目立つ『赤刃』ですが、一度手に取り読んでいただけたら幸いです。

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