堂場瞬一「Killers」

それは半世紀前から続く連続殺人事件の継続を意味する!!

Killers(上)

定価:900円

2014年、渋谷。東京五輪にむけ再開発が進む中、古いアパートで老人の他殺体が発見された。老人の額には〈十字の傷〉が付けられていた。新聞記者の河東怜司(かわとう・れいじ)、捜査一課の生沢薫(いくざわ・かおる)は、その傷痕より1961年から続く連続殺人事件を思い出す。この老人は何者なのか? 半世紀にわたる殺人者の系譜と追う者たち。

なぜ殺すのか? 渋谷に潜む「殺人者(Killers)」の存在。半世紀、三世代にわたる、殺す者と追う者たちの系譜。

Killers(下)

定価:900円

1985年、渋谷。刑事の生沢宗太郎(いくざわ・そうたろう)は代官山で起きた殺人事件の報を受ける。死体の額には〈十字の傷〉が付けられているのだという。20年前の連続殺人がなぜいま? 生沢は犯人を追うが──。彼はなぜ殺すのか? 半世紀という時の流れに潜む殺人者。「人が人を殺す」という問いに向き合い描く記念碑的巨編。

堂場瞬一(どうば・しゅんいち)

堂場瞬一(どうば・しゅんいち)

1963年茨城県生まれ。2000年『8年』で第13回小説すばる新人賞受賞。警察小説、スポーツ小説などさまざまな題材の小説を発表している。著書に「刑事・鳴沢了」「警視庁失踪課・高城賢吾」「警視庁追跡捜査係」「アナザーフェイス」「刑事の挑戦・一之瀬拓真」「警視庁犯罪被害者支援課」などのシリーズ作品のほか、『黒い紙』『メビウス1974』『under thebridge』『社長室の冬』『埋れた牙』『錯迷』『犬の報酬』『十字の記憶』『1934年の地図』
『ネタ元』『ランニング・ワイルド』など多くの作品を発表している。

〈担当編集者解説〉殺す側の心理

 衝動殺人、計画殺人、大量殺人、そして連続殺人――。

 警察小説の名手として知られる堂場瞬一が、自身100冊目(単行本時)となる小説に選んだテーマは<連続殺人とはなにか?>というものだった。連続殺人鬼・シリアルキラーと呼ばれる者たちの心理。もちろんさまざまな犯罪心理学者が研究しているが、それを小説として、物語として体感し、認知することはできないか、という試みの元に、本作は描かれている。

 冒頭は、現代の渋谷から始まる。この渋谷という土地は、著者自身が大学時代を過ごし、現在も仕事場を置く土地である。舞台を自らのフィールドに据えることで、この作品をより深くまで掘り下げたいという思いがあったのかもしれない。

 2020年の「東京オリンピック」に向け、渋谷の再開発が進む中、古いアパートから老人の他殺体が発見される。右手の欠損……その特徴から、警察は遺体を「長野保」だと発表する。その名前は、警視庁捜査一課、刑事・生沢薫にとって因縁だった。同じく刑事だった祖父・宗太郎は、この「長野保」を追っている最中に何者かに殺されていたのだ――。

「捜査Ⅰ」と題されたこのプロローグが終わり、第一部が始まる……。

 舞台は1961年の渋谷へと移る。この時代の渋谷もまた、「東京オリンピック」に向けての開発が進んでいたのだ。春の小川と謳われた渋谷を流れる川は暗渠となり、街並みには区画整理の波が押し寄せていた。変貌と遂げる渋谷で、額に「十字の傷」を付けられた連続殺人事件が起こる。犯人は、長野保。実は、この小説では、初期の段階で読者に犯人は開示されている。なぜなら、この作品は「犯人を追う物語」ではなく、読者は「犯人と共に小説世界を体感する」ことに目的がある。

 さらに第二部では、バブルに沸き立とうとする渋谷を舞台に、殺人が継続される。半世紀という時の流れ、時代に、経済に翻弄され、変貌していく都市の姿と、その深層に息を潜め、生き続けるもの。三世代にわたる捜査の手をかいくぐり、「彼はなぜ殺すのか?」その心理を、読者と共に考えたいという試みから、この小説は構築されていく。

 切り裂きジャック、ゾディアック、昨年末に日本を震撼させた座間市での連続殺人――。

 本作での連続殺人者・長野保は、翻訳家として生計を立てている。そして長野自身が、テッド・ゴールドマンというアメリカの12人を殺害した連続殺人鬼が獄中で書いた『Life of killer』という小説の翻訳出版を試みようとする。それはまるで、「殺人鬼もまた、殺人鬼であることを知ろうとしている」かのようにも思える。各パートの始まりに、長野は、殺人の心得とも思えるメモを付けている。作中、全16箇条にわたるこのメモこそ、この物語の中で「連続殺人者」が完成されていく過程なのかもしれない。

 この作品は、ただ書き手の意図によって構築されたの物語ではなく、作者もまた物語という形を借りて「未知なるもの」の手ざわりをたしかめていたのではないか、そして読者と共に、「未知なるもの」について考えてみたいという試みだったのではないかと感じている。

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