滅び行く清の王女・愛新覚羅顕シ(シは王偏に子)は国を去り、日本人として育てられた。後に日本の大陸進出を邁進する闘士として、東洋のジャンヌ・ダルクと持て囃された彼女が、なぜ十代で女を捨てて男になると宣言し、「男装の麗人」に変貌したのか? 国家を巡る思惑の狭間で生きる少女の、数奇な青春と恋の物語!
(続篇刊行は来年に予定しています)
本名は愛新覚羅顕シ(あいしんかくら・けんし)(シは王偏に子)。幼少時に日本人引き取られ来日する。「男装の麗人」として知られ、日本の諜報員としても活動する。
満蒙独立運動の先駆者として知られる。清王朝では筆頭の名家の粛親王に大正3年(1914年)に第4側妃の子で第14王女である愛新覚羅顯シを養女としてもらい受けた。
陸軍少尉、後に関東軍報道部所属。松本連隊配属中、松本高女に通っていた芳子に出会う。
1997年10月、『催眠』でデビュー。本年で作家デビュー20周年を迎える。本作はブームと言われるほどの反響を巻き起こし、たちまちミリオンセラーとなる。「千里眼」シリーズ、「万能鑑定士Q」シリーズもメガヒットとなり、ミステリ作家としての地位を不動のものにする。講談社文庫からは「探偵の探偵」、「水鏡推理」と人気シリーズを連発、今年は歴史エンタテイメント小説に挑戦し、立て続けに話題作を刊行している。12月には、第二次世界大戦中のベルリンと東京を跨ぐスペクタクル大作を刊行、来年は『生きている理由』の続篇も予定している。今後の活躍から絶対目が離せない作家である。
2017年4月に『黄砂の籠城』(講談社文庫)が刊行されたとき、ミステリ作家として押しも押されもせぬ人気と実績を持つ松岡圭祐が歴史小説を!? と読者の度肝を抜いた。しかも中国義和団の乱をモチーフにした上下巻という大作だったからなおさらだ。
そんな世間の驚きも冷めぬうちに、松岡圭祐は二の矢三の矢を放ってきた。2ヵ月後にはシャーロック・ホームズが伊藤博文に会うというフィクショナルな舞台でエンタメに振りながら、核に明治24年の大津事件を据えるという搦め手の歴史ミステリ『シャーロック・ホームズ対伊藤博文』を上梓。さらにその2ヵ月後、太平洋戦争での日本軍によるキスカ島撤退作戦を日米双方の視点で描いた『八月十五日に吹く風』が出るに至って、最初の驚きはすっかり感嘆と感動に取って代わられたのである。(中略)
そんな著者の歴史小説第4弾のテーマが川島芳子と聞いて膝を打った。清朝末期に皇族の王女として生まれながら日本で育てられ、男装の麗人として一世を風靡した女性である。東洋のマタ・ハリとジャンヌ・ダルクとも呼ばれた彼女の数奇な運命は、その派手な噂の数々に反して確定している〈史実〉は極めて少ない。歴史に向き合うミステリ作家としては惹かれて当然のモチーフだ。『千里眼』『万能鑑定士Q』『水鏡推理』など、個性的で魅力的な女性キャラクターを生み出してきた著者が実在の川島芳子をどう描くのか。
一読して驚いた。思わず座り直した。これはアイデンティティに悩むひとりの少女の、渇望と慟哭の青春物語ではないか。
謎と波乱に富む川島芳子の生涯。本書ではその青春時代に焦点を当てている。(中略)
顕シ誕生の前日譚に始まり(『黄砂の籠城』と併せて読まれると一層楽しめる)、16歳の芳子が断髪・男装するまでを描いている。つまり、なぜ彼女は「女を清算」し男になる決意をしたのかを追うのが主眼だ。その大きな謎を軸に、明確な〈正解〉が証明されていない大小の謎を絡めていく。 なぜ実父・善耆は数多くいる女児の中から顕シを川島浪速に渡したのか。なぜ川島浪速は芳子を正式に入籍せず、清朝皇族の王女のままにしておいたのか。(中略)
これらの謎を、本書は芳子の少女時代から青春時代を追いながら、丁寧に史料をすくいあげ、あるいは大胆に創作を絡めながら、解き明かしていく。
本名は愛新覚羅顕シ。清朝末期の1907年に粛親王善耆の第14王女として生まれる。大陸浪人だった日本人の川島浪速の養女となり日本に来たのが7歳のとき、大正3年(1915年)だ。ただし、生年も来日年も複数説あることをお断りしておく。
顕シは川島芳子という日本名を与えられ、まずは東京で小学校に通う。のちに浪速の故郷である長野県松本に転居して松本高等女学校に転入。翌年、実父・粛親王善耆の逝去に伴い休学して中国へ渡るが、3ヵ月後に帰国した時に復学が認められず、以降、養父の教育下に置かれることになる。このとき芳子は15歳。
このあとしばらくして芳子は突然髪を短く切り、男装するようになる。記録として残っているのは当時の新聞・雑誌に掲載された坊主頭の芳子の写真。そしてのちに記された芳子の手記のみだ。手記には「永遠に女を清算した」とあるだけで、断髪・男装の理由には触れていない。それが世の憶測を呼び、序章で著者が挙げたような推理・推測が広がった。
その後、芳子は男装の麗人としてアイドル視され社会現象を巻き起こす。昭和二年(1927年)、蒙古族の将軍の二男カンジュルジャプと結婚、2年後に離婚。上海に渡って諜報活動にかかわったという説もあるが詳細は不明。芸能人や有名人との華やかな交流も話題を呼んだ。そして太平洋戦争が終結した1945年、芳子は中国で捕らえられ、国を裏切ったとして死刑判決が下される。
上・下 定価:本体各640円(税別)
圧倒的筆致のスリルと爽快感で、一気読み必至。1900年北京での知られざる史実の驚異と思わず涙する人間ドラマが展開する!
明治維新からわずか30年で「国際法を守規範の筆頭」と世界から賞賛された、義和団事件における日本と日本人の姿を鮮やかに描いている。
定価:本体830円(税別)
ホームズが、実際に起きた大津事件の謎に挑み、伊藤博文と逢着する。聖典シリーズのあらゆる矛盾が解消される 20世紀以最高のホームズ物語誕生!
これは歴史の重厚に、探偵のケレン味が挑む興奮作だ!
虚実の混ぜ具合が、実に絶妙。重厚でありながら第一級のエンターテインメント。
定価:本体740円(税別)
1943年、北の果て・キスカ島での奇跡の救出劇。戦史に残る大規模撤退作戦を鮮やかに描く、 感動に心震える、日本人必読の書! 迫真の筆致。窮地において人道を貫き、歴史を変えた人々の信念に心震わされる。8月15日にふさわしい一冊。