講談社文庫

やがて海へと届く 彩瀬まる 特別対談

献灯使 表紙

やがて海へと届く

彩瀬まる

一人旅の途中ですみれが消息を絶ったあの震災から三年。 今もなお親友の不在を受け入れられない真奈は、すみれのかつての恋人、 遠野敦が切り出す「形見分けをしたい」という申し出に反感を覚える。 親友を亡き人として扱う彼を許せず、どれだけ時が経っても自分だけは彼女と繋がっていたいと悼み続けるが――。

彩瀬まる×住野よる 特別対談

『やがて海へと届く』の文庫刊行に向けて、愛に溢れたコメントを寄せて
くださった住野よるさん。

2018年9月に公開された劇場アニメ『君の膵臓をたべたい』の映画作中
にも、本書が「主人公が読んでいる本」として登場しているほど。

そこに隠された作品への思いを、彩瀬まるさんとの対談で語って下さいました。

彩瀬まる

彩瀬まる

1986年生まれ。2010年「花に眩む」で第9回「女による女のためのR‐18文学賞」読者賞を受賞しデビュー。自身が一人旅の途中で被災した東日本大震災時の混乱を描いたノンフィクション『暗い夜、星を数えて 3・11被災鉄道からの脱出』(新潮社)を2012年に刊行。『やがて海へと届く』で第38回野間文芸新人賞候補、『くちなし』(文藝春秋)で第158回直木賞候補となる。

住野よる

高校時代より執筆活動を開始。デビュー作『君の膵臓をたべたい』がベストセラーとなり、2016年の本屋大賞第2位にランクイン。その後『また、同じ夢を見ていた』、『よるのばけもの』(すべて双葉社)、『か「」く「」し「」ご「」と「』(新潮社)、『青くて痛くて脆い』(KADOKAWA)を発表し、いずれもベストセラーとなる。

住野よる

劇場アニメ『君の膵臓をたべたい』に『やがて海へと届く』が登場

彩瀬 映画、拝見しました! すごいびっくりしました! 『やがて海へと届く』が『君の膵臓をたべたい』の映画に登場させてもらえたのはもちろん嬉しかったのですが、刊行の時期から数年しか離れていない本が同時代の映画の中に登場するというのは、あんまりみたことがなかったので、「こういうこともできるんだ」と新鮮な気持ちになりました。

住野 僕は『やがて海へと届く』を読んだ時点からずっとツイッターで、『君の膵臓をたべたい』の主人公に読んでほしい一冊をあげるなら『やがて海へと届く』だって言っていたので。今回アニメの中でそれを実現させられて、彼に贈ることができてよかったです。

彩瀬 ありがとうございます。はじめて『君の膵臓をたべたい』を読んだときには、主人公が『やがて海へと届く』のような作風の本を読んでいるイメージはなかったのですが、映画で彼が読んでいる場面を観て、彼自身への印象が変わりました。作中の「ある悲しい出来事」に対して、主人公が気持ちに折り合いをつけて活路を見出していくシーンでは、『やがて海へと届く』が過去の読書体験の一部として彼の中で機能できているだろうか、少しでも役に立てていたら良い、と祈るような気持ちになりました。フィクションの人が、現実のものを読んで変化する、という不思議な体験をしました。

劇場アニメ『君の膵臓をたべたい』に『やがて海へと届く』が登場

▲『やがて海へと届く』が、住野よるさん劇場アニメ
『君の膵臓をたべたい』に登場したシーンがこちら。

© 住野よる/双葉社
© 君の膵臓をたべたい アニメフィルムパートナーズ

『やがて海へと届く』との出会い

住野 『やがて海へと届く』を読んだきっかけは、彩瀬さんと共通の担当さんからオススメされたからです。彩瀬さんという作家さんがすごい、と聞いていて。それでたまたま書店さんで単行本を手にとりました。「惨死を越える力をください。どうかどうか、それで人の魂は砕けないのだと信じさせてくれるものをください」という帯の文章を見たとき、本から手が伸びて胸倉をつかまれたような気持ちになったんです。これはすごそう、と思って読んでそこから彩瀬さんの本をわーと読む時期に入りました。

彩瀬 ありがとうございます。「惨死を~」という言葉は、本を書く前から絶対にどこかに入れないといけないと思っていました。

住野 『やがて海へと届く』を読み終わった瞬間、天を仰ぎました。すごい……って。それで共通の担当さんにめちゃくちゃ長い感想メールをお送りしたんですけど。僕が最初に思ったのは「こんなにも人の心に寄り添おうとしている小説を書いている人が、ちゃんと生きているのか」と。ぼろぼろなんじゃないのかなって。

彩瀬 笑。

住野 僕は『やがて海へと届く』を読んで、姿形も知らない彩瀬まるさんという方が、体操座りで座っている読者の横にそっと座って、「大丈夫、みんな傷ついているから」と言ってくださっているイメージを持ちました。この本は多くの人にそれがなされる本なんだろうって思ったら、人の苦しみを再理解して「こういうことにも傷ついていいんだよ」というような物語を描かれている優しい方が、こんなに苦しみに満ちた世界でちゃんと生きておられるのかな、と心配になりました。

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