タイタニア一族に傷をつけた男、ファン・ヒューリック。彼ただ一人の行動と知力で歯車が狂いだしたのだ。宇宙を放浪するファン一派を駆逐せんと、タイタニア一族は威信をかけ「タイタニアの五家族」の当主の一人である猛将ザーリッシュ・タイタニアを派遣したが……!? 日本が誇る宇宙の叙事詩、待望の第2巻。
宇宙が変わり始めたのか、それとも人類が求めたのか。磐石だったタイタニア支配の綻びが広がる。敗戦の報復と地位回復のため、圧倒的戦力をもって戦を仕掛けたタイタニアだったが、ファン・ヒューリックはさらなる策で対抗する。そんな折、タイタニア一族に内乱が……。人類未来を彩る大叙事詩、待望の第3巻。
隆盛を極めたタイタニア一族に深刻な亀裂が。次期藩王を狙うイドリスは藩王暗殺未遂事件を機にアリアバート、ジュスランに叛逆罪を宣告。さらには二人を討つべく、一族の怨敵ファン・ヒューリックを自軍へ迎えいれる策に出た。謀略の渦巻く中、ついに戦端が開かれる。本格銀河叙事詩(スペースオペラ)の名作、待望の第4巻。
二世紀にわたり宇宙を統べてきたタイタニア一族の内乱。アリアバート・ジュスラン連合軍の勝利目前、藩王アジュマーンは和睦の場に刺客を放つ。全宇宙の首都「天の城(ウラニボルグ)」を危険に曝してまでも謀計を巡らす藩王の真意とは? 人類の命運を握る者たちの最後の戦いが始まる。後世に伝えたい銀河叙事詩、ついに完結。
タイタニア一族第八代当主 無地藩王(ラントレス・クランナー)ヴァルダナ帝国貴族
「タイタニア五家族」の当主 公爵
「タイタニア五家族」の当主 公爵
「タイタニア五家族」の当主 公爵
「タイタニア五家族」の当主 公爵
エルビング王国の王女
タイタニアの宿敵 戦略家
アジュマーンの兄の子 子爵
イドリスの弟 男爵
イドリスの弟 准男爵
ザーリッシュの弟 伯爵
外交家 伯爵
ザーリッシュたちの母 公爵夫人
野心家 伯爵夫人
ジュスランの侍女
「朝焼けの女神(アウストラ)」号艦長 大佐
ヴァルダナ帝国皇帝 名ばかりの君主
ヴァルダナ帝国皇后
毒舌家 哲学博士
カサビアンカ公国公女 女性戦士
「正直じいさん二世」号船長 ミランダの夫
物語の現在は、星暦446年(星暦元年は西暦2530年なので、いまから千年近く未来になる)。星間都市連盟から勃興したタイタニア家の当主は、ヴァルダナ帝国から「無地藩王」の称号を与えられ、圧倒的な軍事力を背景に銀河の覇権を握る。この時点での支配者は、タイタニア五家族の頂点に立つ第8代当主アジュマーン・タイタニア。藩王となって5年目の40歳、冷厳にして辣腕、揺るぎない権勢を誇る。
他の四族の長は、いずれもまだ若い。27歳のアリアバートは長身の端正な美男子。性格は温厚だが、軍略にすぐれ、公私ともにバランスのとれた有能なオールラウンダータイプ。同じ27歳のジュスランは、アリアバートに比べるとやや平凡な顔立ちながら頭脳明晰で政治手腕にすぐれ、将来が見えすぎるがゆえに夢を抱けない複雑な性格の持ち主。26歳のザーリッシュは精悍な顔に顎髭を生やしたマッチョな猛将タイプ。勇猛果敢にして抜群の軍事能力を誇るが、リーダーシップが強すぎて右腕となる部下がいない。最年少のイドリスは美貌の貴公子。強烈な野心とありあまる才気をやや持てあましている。傲岸不遜な性格がわざわいしてか、彼もまた部下に恵まれない。
絶対君主アジュマーンにこの若き4人を加え、盤石の体制で統治されていたタイタニアが、蟻の一穴から崩壊へと向かいはじめる……というのが最初の3冊。
巨人に立ち向かう蟻は、にんじん色の髪が特徴のファン・ヒューリック、28歳。エウリヤ都市艦隊の無名の大佐だったが、ケルベロス星域会戦に際し、上官が急病になったという理由で司令官代理として艦隊を指揮し、アリアバート率いるタイタニア軍を奇策で打ち破り、常勝不敗のタイタニアに初の黒星をつける。本来、負けるはずだった戦いに勝ってしまったことでエウリヤを追放され、軍から足を洗うつもりで惑星エーメンタールに赴くが、ザーリッシュの弟、アルセス・タイタニアの手の者に捕まり、その後いろいろあってアルセスと敵対。行きがかり上、タイタニアに(ほとんど徒手空拳で)叛旗を翻すことになる。『平家物語』で言えば源義経のポジションだが、義経とは反対に(?)いたって軽薄なお気楽男。
そのファンとともに戦う面々は、まず、宇宙海賊のドクター・リーことリー・ツァンチェン。哲学の博士号を取得した知性と教養の持ち主で、海賊船団を率いるリーダーながら、独自の文明観、歴史観を有する研究者タイプ。ファンの参謀というか、教師的な役割を果たす。ミランダ・カジミールは、タイタニアに滅ぼされたカサビアンカ公国の元公女にして、大柄な体軀と豪快な性格を誇る女傑。その他、エウリヤ軍にファンの副官だったミハエル・ワレンコフや情報参謀だったルイ・エドモン・パジェスなどが一統に加わり、反タイタニアの旗を掲げることになる。
といっても彼らは、源氏と違って、身の程もわきまえずタイタニアに弓を引いたお尋ね者。しかし、そう侮って生きたままファンを捕縛しようとしたばかりに何度も逃亡を許し、『2』ではついに、ファン・ヒューリック一統が身を寄せた惑星バルガシュの政府が心ならずもタイタニアに敵対する事態を招く。
この結果、タイタニア軍のザーリッシュ艦隊はバルガシュ正規軍と交戦。ファンの仕掛けた罠にはまってザーリッシュ艦隊が壊滅し、ザーリッシュは横死を遂げる。
この事態を受けて、ヴァルダナ帝国(タイタニア)はバルガシュに宣戦布告。いよいよ開戦──というところで『2』が終了。『3』は、明けて星暦447年、勅命を受けたアリアバートがおよそ2万の艦艇と300万余の将兵を率いて惑星バルガシュへ遠征するところから始まる。
この巻の白眉は、バルガシュの海中に潜伏していたバルガシュ艦隊およびファン・ヒューリック一党と、アリアバートが直々に率いる捜索部隊との戦い。この海中戦においてアリアバートはふたたびファン・ヒューリックに敗れ、その責任をとって、遠征軍総司令官の職を辞し、五家族代表会議からも退くことを表明する。
……と、ここまでの流れは、巨大な敵を相手に勝ち目のない戦いを挑んだ男が、天才的な軍略とゲリラ的な立場の利点を最大限に生かして小気味いい進撃を続け、ついに巨大帝国の一部を揺るがすまでになる……という痛快スペースオペラともとれる。
しかし、『3』の後半、タイタニアvs.ファン・ヒューリックという図式は意外なかたちで崩れる。星暦447年3月、五家族代表会議の席上、遠征軍総司令官にジュスランが就任するも、その艦隊が出発した直後、タイタニア本拠地の天の城で藩王狙撃事件が勃発。その背後にジュスランありとして、イドリス率いるタイタニア軍がジュスランを追撃する。からくも逃れたジュスランはアリアバートと合流するが、イドリスは、藩王の名のもとに、アリアバートとジュスランのすべての地位と公民権を剝奪。両陣営がたがいに相手を奸臣と呼んで対立する内乱状態に突入する。だが、病床の藩王アジュマーンはなぜか沈黙を保ち、動こうとしない。風雲急を告げる、未曾有のお家騒動。タイタニアはどうなるのか? 『タイタニア4 烈風篇』解説より抜粋
著者は、「『タイタニア』完結記念 田中芳樹 ロングインタビュー」(ニコニコ生放送、2015年3月6日)の中で、「一族の興亡ということで、偉そうなことを言えば『平家物語』をイメージ」して『タイタニア』を「書かせていただきました」と述べている。『平家物語』は、「奢れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし」の一語で、どれほど栄華を誇ろうと必ず滅びるという無常観を示した。『タイタニア』の第1巻がバブル景気の全盛期に書かれ、本書に登場する超巨大戦艦「黒太子」が日本社会のメタファーのように見えることを踏まえるなら、著者が「奢れる人」としたのは、空前の好景気に浮かれ、“ジャパン・アズ・ナンバーワン”の時代が永遠に続くと疑わなかった当時の日本人だったのではないだろうか。
『タイタニア』は、完結までに27年を要したので、残念ながら著者の“警鐘”に気付かず、時代が先に行ってしまった観がある。ただ本書までを読むと、著者の想像力が、予見的だったことに気付くのだ。
長い不況を乗り切るため、政府が金融と労働市場の規制緩和を行い、企業は正社員を非正規社員に置き換えてコストの削減を行った。それが景気を上向かせた時期もあったが、日本は好景気の恩恵を受ける富裕層と、取り残された一般庶民との二極化が進んだ。これは、タイタニアによる宇宙支配の構図に近くはないだろうか。
タイタニアは、民衆に「パン」(生活の安定)と「サーカス」(娯楽)を与え、社会を改革して「現在より悪く」なるより、「現状に満足」し「ささやかな幸福」を守る「消極的保守主義」を根付かせたとされるが(第2巻)、これも格差が広がっているのに、現状を変えようとする人が少ない今の日本に似ている。
「星間都市連盟」結成直後、日本でいえば高度経済成長期的な活力と野心の減退を象徴するのが、2011年の東日本大震災によって引き起こされた福島第一原子力発電所の事故といえる。著者が、「人類史のなかで、『原子炉は絶対に事故をおこさない』とか、『あの船は100パーセント沈まない』とかいう利益追求者の発言は、すべて虚言であった」(本書)の一文と「蛇足(あとがき)」を書いたのは、起こって欲しくない未来を当ててしまったがゆえの必然だったと考えて間違いあるまい。
政治学者のバートラム・グロス『笑顔のファシズム』(“Friendly Fascism:The New Face of Power in America”,1980、吉野壯兒、鈴木健次の翻訳は1984年)は、「ビッグ・ビジネスとビッグ・ガバメント」が提携し、「超富豪や大企業の経営者、高級将校や高級官僚などの特権を維持するために、国の内外を問わず、他の人々の権利と自由を侵害する体制」を、「フレンドリー・ファシズム」と名付けた。
ファシズムといえば、独裁的な政治体制で、言論の弾圧、反対派の粛清、密告が奨励され秘密警察が暗躍する暗い社会をイメージしがちだ。これに対しグロスは、「超国籍企業」が最新の技術と経済力で「大衆を支配」するのが「フレンドリー・ファシズム」であり、その傘下に置かれたメディアは「高度に選択的で偏向した」報道を行い、巧みに世論を誘導(〝洗脳〟と言い換えられるかもしれない)するとしている。
まさにタイタニアの構築した社会システムは、笑顔で近付き、民衆が抑圧されている事実にさえ気付かない「フレンドリー・ファシズム」の究極の形といえる。こうした巧みな支配と戦うのが、『銀河英雄伝説』に登場する天才的な軍人ヤン・ウェンリーの対極にいる平凡なヒューリックたちなのは、ごく普通の人でも、社会を覆う不気味な影に気付き、それにあらが抗うことができるというメッセージに思えてならない。
その意味で『タイタニア』は、これから到来する社会をディストピアにしないためには何が必要かを描いた〝警鐘〟の書であり続けるだろう。 『タイタニア5 凄風篇』解説より抜粋
「この結末、驚かずにはいられない」。まさにこの一言に尽きるシリーズ完結篇。
タイタニア一族の内乱の勝者は誰なのか?──スピード感とサスペンス感あふれる展開に一気読み必至。戦いを通じて描かれる深い人間ドラマに心が揺さぶられること間違いなし。
ベテランファンから、漫画『アルスラーン戦記』や『銀河英雄伝説』などでハマった新しいファンまで、そしてもちろん新規読者の皆さんも、多くの方に自信をもってオススメします!
そして作品を読み終えた後には、こんな一言が頭をよぎることでしょう、「田中芳樹作品は面白い」と。
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