昭和最大の未解決事件、グリコ・森永事件を題材にした『罪の声』は、昨年8月に刊行されると新聞、雑誌、SNSなどであっという間に話題になり、その評判がいまも広がりつづけている。著者の塩田武士氏は神戸新聞社出身。記者時代に培われた取材力が発揮された作品は『罪の声』だけではない。最新刊『ともにがんばりましょう』も圧倒的リアリティで読ませるエンターテインメントだ。作品と、作家を特集で紹介しよう。
昭和最大の未解決事件、グリコ・森永事件を題材にした『罪の声』は、昨年8月に刊行されると新聞、雑誌、SNSなどであっという間に話題になり、その評判がいまも広がりつづけている。著者の塩田武士氏は神戸新聞社出身。記者時代に培われた取材力が発揮された作品は『罪の声』だけではない。最新刊『ともにがんばりましょう』も圧倒的リアリティで読ませるエンターテインメントだ。作品と、作家を特集で紹介しよう。
「IN★POCKET」2017年3月号より一部抜粋 >「IN★POCKET」2017年3月号の詳細はこちら
このような、放課後の部室にくつろぐ学生たちのごとき執行委員が、一変してその本領を発揮する場がある。それが団交=団体交渉だ。
団交とは何か。『ともにがんばりましょう』の上方新聞労働組合執行委員長の寺内はこう説明する。
「俺らの主戦場は年3回の経済交渉や。うちの会社では、冬の一時金を決める秋年末交渉が11月、基本賃金について議論する春闘が3月、夏の一時金は夏闘で6月に交渉する。もちろん金だけやない。職場環境改善のために、諸要求を提出して経営側と交渉する」
■まずは会社がいかに苦しいか、先手を打って「不況宣伝」をしてくる経営陣。
交渉慣れしている彼らに、新生執行部はなかなか歯が立たない。
「君たちの懸念はよく分かる。しかし、定期昇給がある限り人件費はどんどん増えていく。今の人数を保ったままでは、とても会社が成り立たない」
「我々は懸命に働いてきたわけであって、お荷物のような言われようは納得できません。それに定昇は個人のスキル向上に対する正当な対価ですよ」
「定昇凍結は今やどこにでもある話だ。給料が上がって当たり前という時代じゃない。そんな考えは捨ててくれ」
「購読者数は横ばいの維持が精いっぱい。広告は下げ止まらず、設備投資が続いて四面楚歌の状態だ。つまり、入ってくるお金が減って、出ていくお金が増えるということ。分かるよな?」
経営が苦しいという内容なのに、どうしてこんなに態度が大きいのか。普通、逆ではないかと思いつつ武井は黙ってキーを打ち続けた。
■団交を重ねるにつれ議論は白熱──。
「そもそも職場に定員なんかないんだよ。今いる人数でやるしかない。
こっちだって無駄な業務は随分と外に放り出したよ」
「何か外注したもんがありましたっけ? 増えた業務ならいくらでも言えますけど」
「それは……、こう……、何かあるだろ!」
「業務のアウトソーシングに関して、管理職の皆さんにヒアリングしてるんですよね。
その結果はいつ出るんですか?」
「もうすぐや」
「そしたら今月中には出ますよね?」
「ちょっと分からんわ」
「年明けたら干支変わりますよ」
「そら、そうやろ。何を言うてんねや君は。年内や。今年中には公表するから」
「電子新聞のビジネスモデルについても聞きたいんですけど」
「あっ、それはまだまだ」