『霊獣紀 鳳雛の書(上)』
「あなたがこの世に生を受けたときから、ずっと見守ってきたのです」
幼き未来の聖王・イーグィを守護鳥・紫鸞が姉のように包み込む。
鳳凰の眷属・紫鸞は、玉山で天命を授かった直後、神獣・一角麒に出会う。
人界に馴染むことが肝要だ、という一角の助言から、紫鸞は人間の街で暮らす。
ある夕暮れ、突如現れた流星に突き動かされ、北方遊牧民の穹盧に辿り着く。紫鸞を惹きつけたのは、たった今受精した未来の聖王が放つ光だった。
「霊獣紀」シリーズ刊行にあたって
篠原悠希
魏呉蜀の三国を統一した晋が三代で崩壊したのち、百年以上続いた五胡十六国時代は、中華大陸の民族大移動の時代でもあります。あまりにめまぐるしく王国が乱立、滅亡する混沌とした時代で、三国時代や隋唐に比べると日本人には馴染みが薄く物語にするのが難しいため、歴史創作的には空白の時代でもありますが、石勒や苻堅、慕容煌という、多民族国家という新しい社会を目指した英雄もいて、物語にしないのはもったいない時代でもあります。そこで戦続きの殺伐とした単調さと血生臭さをファンタジーを絡めて表現して、現代人にも共感できるキャラクターを造形し物語を紡いでみました。ともに太平の世を夢見て歩きながらも、理想主義の霊獣一角と、現実主義ともいえる異民族のベイラとの葛藤も見どころです。
PROFILE
篠原悠希(しのはら・ゆうき)
島根県松江市出身。ニュージーランド在住。神田外語学院卒業。2013年「天涯の果て 波濤の彼方をゆく翼」で第4回野生時代フロンティア文学賞を受賞。同作を改題・改稿した『天涯の楽土』で小説家デビュー。中華ファンタジー「金椛国春秋」シリーズ(全10巻)が人気を博す。著書には他に「親王殿下のパティシエール」シリーズ『マッサゲダイの戦女王』『狩猟家族』などがある。