講談社文庫

□2018年3月号目次

いま海堂尊を見逃すな!
稿

「バブル三部作」(黒本シリーズ)は私の原点である

海堂尊

『ブラックペアン1988』ドラマ化のオファーを頂いた時は正直驚いた。デビュー二年目、十年以上前の作品だからだ。だが執筆時すでに二十年前を舞台にしていたので、時の経過に影響される作品ではないのかもしれない、と納得した。

 映像化にあたってはかなりの改変を容認した。一番の改変は舞台を1988年から現代に移したことだ。なのでドラマは新しい物語としても見られるし、登場人物は馴染みの面々だから小説の読者にもいろいろな意味で楽しんでもらえると思う。

『ブレイズメス1990』と『スリジエセンター1991』を併せて作者は「バブル三部作」と呼んでいるが、装丁のビジュアルから「黒本三部作」と呼ぶ読者もいるようだ。「ペアン」だけでも完結しているが、「ブレイズ」と「スリジエ」を併せてお読みいただけば物語の闇は一層深く、光はより煌びやかになると思う。特に今回文庫化した「スリジエ」を書き上げた時、その手応えに身震いしたことは、今でも昨日のことのようによく覚えている。

 始めは考えていなかったが、書き終えたら共通するテーマが浮き上がってきた。それは「外科医の本懐」であり「医療とカネ」だ。それを下敷きに読んでいただくとまた違った色合いが見えてくるはずだ。

『チーム・バチスタの栄光』(宝島社)で作家デビューし、十年で三十作弱の物語を書いたが、すべて架空都市「桜宮」で起こった出来事として関連させている。特に剣道小説『ひかりの剣』(文春文庫)は「ペアン」の真裏の物語なので、「ペアン」を読んだ後で手にとってみてほしい。ただしすべての作品が大なり小なり関連しているので、真に「ペアン」を読み解くには、私の全作品を読破する必要があるのであった。うふふ。

 私の作品群のことを書評家の東えりかさんが「桜宮サーガ」と名付けてくれた。今はキューバ革命の英雄チェ・ゲバラとフィデル・カストロの『ポーラースター』シリーズに全力を傾注しているので、サーガ方面はお休みをいただいている。だが本流の最新刊『スカラムーシュ・ムーン』(新潮社)が二月に文庫化され、四月には超傍流の新刊『玉村警部補の巡礼』も出版されるといった具合に、まあまあぼちぼちやっている。

 いずれ二十世紀の中南米から戻ったら、サーガを本格的に再開するかもしれない。その時は過去の作品のおさらいが必要になるが、まず手に取るのはきっと『ブラックペアン』だろう。

 すべての物語は、ここから始まったのだから。


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