講談社文庫

シリーズ最終巻『猫のよびごえ』刊行! 猫と町田康

写真 / 但馬一憲

町田康さんが猫との暮らしを描いたエッセイは、2000年4月に「猫の手帖」で連載が始まった。以後、「FRaU」、「Grazia」に連載され、『猫にかまけて』『猫のあしあと』『猫とあほんだら』『猫のよびごえ』と四冊の本となって刊行された。
行き場をなくし、生命の危機に瀕している猫たちを連れ帰り、治療を受けさせて世話をする。それでも別れは訪れる。日々を淡々と丁寧に、写真とともにつづった作品に溢れる猫たちの愛らしさと生命の尊さ。長い人気を誇るベストセラーシリーズを紹介する。

シリーズに登場する猫たち 写真/町田康・町田敦子

※町田康さんと過ごしたたくさんの猫たちの、ほんの一部です。

奈奈(2002~/14歳/めす)

保健所前に捨てられていた白地に雉トラのヘッケによく似た猫。気が強くパンチが得意。どんどん増える新しい猫を敵視していたが最近は体調がすぐれず個別に食事をもらっている。

  • 奈奈
  • 奈奈
  • 奈奈
  • 奈奈集合

 そんなことになるのもナナが並外れて気が強いからである。例えばどういう風に気が強いかというと気に入らぬことがあるとすぐに喧嘩をふっかける。

 しかもその方法たるやいたって直截で、人間であれば、「なにメンチきっとんねん、こら」などと一応、言語で因縁をつけるのであるが、ナナの場合そんなことはしない、いきなり目を三角にして、両手両脚を広げ、真っ赤な口を開けて鬼のような形相で相手につかみかかっていくのである。

『猫にかまけて』

エル(2004~/12歳/おす)

保護団体の人に連れてこられたときには生命の危険に瀕していたが、献身的な看病の結果、元気な猫に成長した。手から餌をもらうなど特別扱いをされてきたため、性格は王子。黒猫。

  • エル

 黒猫がやってきたのは夕方であった。

 ケージのなかに入っている猫をみて私も家人も驚愕した。

 あまりにも小さかったからである。

 * * *

 車で病院に連れていく。

 脱水症状甚だしく、腎臓が機能せず、尿毒症で危篤。体重10グラム減って220グラム。骨と皮。

 エルを診察した医師は、「普通ならもう諦めてくれと言うが、やってみたい治療がある。一か八か賭けになるが、その治療をやりますか」と言ってくれた。

 私たちは、「お願いします」と言うしかなかった。

 エルはこの世に生まれて一ヵ月でこの世から消えようとしていた。

『猫のあしあと』

オルセン(2004~/推定13歳)

保護団体の人から預かり、里親が見つからないまま六本木から熱海へ一緒に越してきた猫。白地に雉トラ。人を怖がるため奈奈たちとは別室で暮らしている。

  • オルセン
  • オルセン
  • オルセン
  • オルセン

パフィー(2004~/推定13歳)

白と茶がパフェみたいに混ざった色。目がまん丸でかわいらしい。人を極端に怖がり隠れてしまうため町田さんは2年間、その姿を見なかったこともある。

  • パフィー

 普段から撫でたり、遊んだりしている猫であれば、触った毛皮の感触など、普段と変わったところがあれば病気かも知れない、と疑うことができる。

 しかし保護した野生の猫は、もちろん撫でることなどできないし、目が合っただけで隠れてしまう猫が多く、病気をしていてもすぐには知れないし、病院に連れて行くのも怖がって大変である。

 野生の猫がなぜそんな態度をとるかというと、そこをすぐ誤解する人が多いのだが、性格が悪いからではなく、そうしないと生きてこられなかったからで、自分を助けようとする者すら怖がるのをみるにつけ不憫でならない。

『猫のあしあと』

シャンティー &
パンク(シャンパン)

拾った夜にシャンパンを飲んだので、シャンとパンと命名。シャンはシャンティー(平安)、パンはパンクの略。元気になることを祈ってつけられた名前の甲斐あってか二頭とも立派な猫に成長した。

  • シャンティー &パンク
  • シャンティー &パンク
  • シャンティー &パンク
シャンティー(2006~/10歳/おす)

夜中に徳利を運ぶ、茶碗を叩き落とすなどの行動で、悪の枢軸と呼ばれるまでに元気に成長。町田さんをママと定めて一番に甘える猫。ときどき目つきが田中眞紀子元衆議院議員に似ている。

  • シャンティー
パンク(2006~/10歳/めす)

シャンティーと一緒に捨てられていた猫。弱々しく元気がなかったためパンクと名付けたが元気すぎるくらい元気な猫となった。極度の食いしん坊。

  • パンク

 昔は猫が苦手だったが一緒に暮らすようになってからすっかり猫が好きになった。

 いつも側にココアやゲンゾーたちがいた。どうでもいいようなことで悲しんだり怒ったりしているとき、彼女らはいつも洗練されたやりかたで、人生にはもっと重要なことがあることを教えてくれた。

『猫にかまけて』
  • 猫コラージュ

 いろんなことが変わっていく。時間が過ぎていく。

 やがて私も死ぬ。

 そのときまで、こうして、みんなが生きていたこと、生きた時間を書いていきたい。そうおもっている。

『猫のよびごえ』
町田家と猫たちの年表
1993
ゲンゾー来る
2001.9
ヘッケを保護
2002.4
ヘッケ亡くなる
2003.1
  • シャア(推定5歳)、保護団体より来る
  • ニゴ(推定2歳)、保護団体より来る
  • トラ(推定1歳)、保護団体より来る
  • ウメチャン(推定12歳)保護団体より来る
2004.4
ココア亡くなる
2004.6
ウメチャン亡くなる
2004.9
エル、保護団体より来る
2004.11
  • ゲンゾー亡くなる
  • 『猫にかまけて』単行本刊行
2004.12
  • クラン(推定5歳)保護団体より来る
  • オルセン(推定1歳)、保護団体より来る
  • パフィー(推定1歳)、保護団体より来る
2006.6
シャンティー、パンクを伊豆で保護
2006.12
熱海へ転居
2007.3
仕事場の猫、熱海へ引っ越し
2007.6
シャア亡くなる
2007.8
スピンク来る(4ヵ月)
2007.10
『猫のあしあと』単行本刊行
2008.3
  • キューティー来る(11ヵ月)
  • トラ亡くなる
2009.1
クラン亡くなる
2009.12
  • シードを引き取る(5歳)
  • ビーチを保護
2010
ネムリ・キョーシロー来る
2011.2
  • トナを保護
  • 『スピンク日記』刊行
2011.5
  • 『猫とあほんだら』単行本刊行
  • サカカマ・シゲゾーを保護
2013.6
ニゴ亡くなる
2013.11
『猫のよびごえ』単行本刊行
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