黒薔薇 刑事課強行犯係 神木恭子 二上剛 定価:本体820円(税別) 本職の元刑事が書いた本物の警察小説 大阪府警新人刑事・神木恭子は、殺人事件を別件で関わった老人の訴えから解決する。しかし老人宅から七体もの死体が発見される。それは府警上層部が隠す闇の一部だった。やがてそれは捜査する神木をも巻き込んでいく……。第2回本格ミステリー「ベテラン新人」発掘プロジェクト受賞作。 ご購入はこちらから ご購入はこちらから
── 今回お二人が出演されたドラマは、二上剛さんの小説『黒薔薇』が原作です。小説を原作としたドラマ制作の場合、お二人は事前に原作をお読みになりますか。 貫地谷 ケースバイケースですね。今回は読みました、電子書籍で(笑)。 岸谷 僕は必ず読みますね。 貫地谷 へぇ、そうなんですね。たとえば神木恭子(貫地谷さん演じる主人公。新人刑事)の家族関係なんですけど、原作ではけっこうドライなんですね。でも脚本はお母さん役が丘みつ子さんで、すっごく明るくて優しく描かれていて。そうすると神木家の雰囲気が原作とは異なってくるので、少し戸惑ったというのはありました。そういうことってありませんか。 岸谷 うん。だから僕は現場に入ったら原作は忘れるようにしています。結局僕らが演じるのはドラマの脚本に描かれている人物なので。……あ、だからまず脚本を読んで、その後にあくまで参考資料として原作にあたるというのが正しいのかもしれない。 貫地谷 なるほど。そうかもしれないですね。折原圭作(岸谷さん演じるベテラン刑事。神木の先輩)の衣裳ですけど、最初はスーツにするかっていってたのに、結局革ジャンになったんですよね。 岸谷 折原の外見って原作では“ゴリラ似”ってくらいで(笑)、何着てるかなんて書いてない。だから衣裳選びは純粋にドラマでの作業になるわけだけど、これがけっこう時間かかった。最終的にライダー風の革ジャンと黒パンツに落ち着いたんだけど、たぶん、こんな衣裳の少ない役って、いままでなかったんじゃないかな。 貫地谷 シーンによってTシャツだけ着換えるみたいな(笑)。 岸谷 日本の刑事さんたちってちゃんとスーツ着て働いてるわけで、リアリズムでいけばスーツなんだよね。でも紆余曲折あって革ジャンに決まった。これってどういうことかっていうと、折原ひとりにフォーカスした衣裳選びだったらこんなに時間をかけなかったと思うんです。つまり神木とのコンビネーションで、それぞれの個性を引き立たせるのにベストな選択が革ジャンだったんだよね。 貫地谷 神木はキチッとしたパンツスーツですもんね。初出勤のシーンでは新人刑事なので無難な暗めのスーツがいいのかなって思ってそんなのを選ぼうとしたら監督(和泉聖治氏)に「いや、話がどんどんダークになっていくから、最初は明るい色でさわやかな感じで」っていわれて。でも明るい色のスーツを着てみるとピカピカの就活生みたいで(笑)。そうみえないようにノーカラーのものにして、ピシッと辛めにコーディネートしてもらいました。だからあの衣裳はすっごく気に入ってます。 岸谷 初のパンツスーツ! 貫地谷 そう、もう恥ずかしい(笑)。 岸谷 いや、パンツスーツでヒールの音をカッカッカッて響かせて歩く姿は、本当、原作のイメージ通りの神木恭子でした。 テレビ朝日系にて 2017年12月16日(土)22:00~放送予定! ── 主人公の神木恭子は、偏差値の低い私大を出て、好きな剣道が続けられるからという理由だけで警察官になりました。とくに正義感が強いわけでもなく、特殊な能力があるわけでもない。いわばどこにでもいそうな女性で、だからこそこの役を演じるということは難しかったのではないかと思うのですが。 貫地谷 この物語はミステリーではありますけど、神木の成長物語でもあると思うんです。たとえば、成長の仕方が、ガーッと伸びてガクンと落ちて、でもまたガーッと伸びる、といったジェットコースターみたいな感じのキャラクターだったら、その都度変化をつけられるし演じやすいんだとは思います。でも神木はちょっとずつ、ホントにちょっとずつ成長していくんですね。それをどう演じ分けたのかと聞かれても……目でもないし、せりふ回しでもないし……。ただ、時系列のなかで「いま私が演じている神木はどのポジションにある神木なのか」ということは意識しました。 岸谷 貫ちゃんがせりふ回しで変化をつけていないといったのはその通りで、神木の発する「ことば」の質というのは首尾一貫していたと思う。そこに神木の人間性というか内面がにじみ出ているんだけど、一方で神木というキャラクターには、それとはかけ離れたギャップを形作っているものがあるんだよね。それは見た目の「かわいらしさ」だとか、スキルがないゆえの「刑事としての頼りなさ」といった外面的なものなんだけど、神木の成長というのはこの内面と外面のギャップの距離が段々近づいて行く過程だったと思います。クライマックスで神木が中村俊介さん演じる瀬名刑事部長と対峙する長いシーンがあるんですが、ここで神木は悲劇的なエピローグを招く残酷なせりふを吐くんです。このシーンを見たとき、それまで距離を縮めていた内面と外面のギャップがついになくなって、ここでピターッと合致したんです。「完全に自分の世界をつかんだ女だ」って感動しました。 貫地谷 ありがとうございます。私は三枚目の役が多かったので、こういうシュッとしたかっこいい役をやること自体が挑戦でした。だからなのか、自分でやっていて恥ずかしくなっちゃうんですよ。神木は剣道の有段者で、容疑者を前に鉄パイプを持って立ち向かうシーンがあるんですが、鉄パイプを構えながら頭の隅っこのところでは「こんなんで大丈夫かなぁ」なんて思っちゃうんです。 岸谷 ぜんぜん大丈夫だったよ。ちょっと鉄パイプが太すぎってのはあったけど(笑)。 貫地谷 確かに太かったですよね(笑)。お芝居に正解はないっていうけど、これでイケてるのか? っていう不安はずっとありました。 岸谷 ぜんぜん正解だったよ。ちょっと鉄パイプが太すぎってのはあったけど(笑)。 ── 岸谷さんは、折原を演じる上でとくに意識したことはありますか。 岸谷 やはり神木との関係性でしょうか。当初は新人の神木をお荷物くらいにしか思っていない。でも捜査現場をともにするうちに次第に神木への見かたが変わっていき、それが信頼となる。ラストシーンでは「神木は俺の相棒だ」と断言するまでに変化するんですね。だから神木との精神的な距離感というものは意識して演じていたと思います。ただ、ドラマは時系列に沿って撮影するわけではないので、いま演じているシーンはどの程度の距離感だったっけ、というのがあって、それが難しいところでもありました。それは神木を演じた貫ちゃんも同じだったと思う。 貫地谷 まったくその通りです。今回はそこがいちばん難しかったところかもしれない。 「IN★POCKET」2017年2月号より一部抜粋>「IN★POCKET」2017年2月号の詳細はこちら
二上剛氏一問一答 二上剛(ふたかみ・ごう)1949年、大阪府生まれ。高校卒業後、大阪府警の警察官となり、某警察署の暴力犯担当刑事を務める。退職後、本書『黒薔薇 刑事課強行犯係 神木恭子』(受賞作『砂地に降る雨』を改題)で、第2回本格ミステリー『ベテラン新人』発掘プロジェクトからデビュー。16年、受賞後第一作『ダーク・リバー 暴力犯係長 葛城みづき』を刊行。 Q1 今回、文庫版が発売されますが、改めてこの本のここを楽しんでいただきたいというところはどこでしょうか? 神木恭子は、事件のキーとなる女性・茂美の明るさの中にある黒薔薇(生きる強さ)に憧れを感じているというところでしょうか。黒薔薇になりつつある自分を楽しんでいるといいますか。 一方、茂美はそんな神木を見抜いています。瀬名親子のような権力者になりたいという気持ちはほとんどの人が持っていますが、その醜さや彼らのなれの果てを読んで欲しいです。 Q2 小説を書こうと思ったきっかけは? 刑事時代にも書かれていたのでしょうか? 権力者の横暴を許さないためです。何の力にもならないと思いますが、私にできることは小説を書くことですので、力一杯やろうと思います。刑事時代に小説は一切書いていませんでした。 Q3 刑事時代の二上さんは、どのような刑事だったのでしょうか? 上司に嫌われる刑事でした(言うとおりにしないから)。早く辞めたい、辞めれば小説を書こうというのが夢でした。暴力犯係でしたので、柔道6段が役に立ちました。やくざには、意外にモテました。 Q4 次回作はどんなものになりますが? また『黒薔薇~』続編の構想はありますか? 次回作は、留置場ものです。退職前4年間留置場勤務でした。ここも問題の多い所でして、書きたいことがたくさんあります。『黒薔薇2』の構想は今は考えていません。 Q5 好きなミステリ小説を教えてください。 島田荘司の『占星術殺人事件』です。それと高村薫の『マークスの山』、若い頃は松本清張ばかり読んでいました。ミステリの面白さは書き始めてようやくわかりました。