高橋 緑(医療ジャーナリスト)
2019.3.15
曙医科大学(東京都)の脇本新一教授チームは、アルツハイマー型認知症の新治療薬の臨床試験に成功した。家族の顔すら分からなくなり、徘徊を繰り返していた重症患者の認知機能が発症前とほぼ同水準に回復したという。脇本教授によれば、従来の常識を覆す「夢の新薬」の登場により患者の生活の質(QOL)は飛躍的に改善し、介護する家族らの負担も軽減する。アルツハイマー型認知症の患者数は世界で約三千五百万人とされ、今後さらに増える見通し。国内外の医療関係者からは「ノーベル賞級の成果」という声が続々とあがっている。
新治療薬「ディメンジア・バスター(DBー1)」を、曙医大の患者三人に投与した場合、全員が家族らと通常の会話ができるようになり、徘徊や排せつトラブルといった問題行動もなくなった。患者たちは発症前の自分をほぼ完全に取り戻した。患者の一人は、介護にあたっていた家族との「再会」を喜び合ったという。
治療後の患者の脳画像をCT撮影したところ、アルツハイマー型認知症に特徴的な脳の萎縮が大幅に改善していた。DBー1が脳神経の再生を促したためとみられる。
今回の臨床試験は、医師が研究目的で行う「臨床研究」の一環。今後、脇本教授らは製薬企業を通じて医薬品として認可を受けるために必要な「治験」を進める計画だという。「世界中の患者に一刻も早く新治療薬を届けたい」と脇本教授は話している。
脇本教授は脳外科手術の世界的権威で、外科医が新薬開発でもノーベル賞級の成果を上げるのは極めて異例である。
泉大助・国立関東病院院長のコメント
劇的な効果に驚いている。アルツハイマー型認知症の臨床現場に革新をもたらすのは間違いない。患者本人はもちろん、患者を支える家族にとっても朗報だ。
牧村信輝・京阪大学医学部長のコメント
今回の試験は少数の患者が対象。効果を正確に評価するには、より規模の大きな試験が必要だ。世界から注目されている新薬だけに慎重に研究を進めてほしい。
※ 本記事は、講談社文庫新刊『幸福の劇薬 医者探偵・宇賀神晃』の内容紹介です。
夢の特効薬は、幻なのか? それとも禁断の薬か? 曙医科大学が開発した認知症治療薬「DB-1」は、臨床研究で画期的な成果を上げた。重症患者たちが、ほぼ完全に脳の機能を取り戻したのだ。国際的製薬企業のサニーがいち早く権利獲得に乗り出すが、一人の医師の自殺から浮かび上がったのは、恐るべき計画だった。曙医科大を放逐され、貧乏病院で老医師の代替医として勤める医者探偵・宇賀神晃がその謎に挑む!
主な登場人物
淀橋診療所勤務。曙医科大学病院の内科医だったが、研究費不正受給を告発し上層部の怒りを買い大学を辞める。大学病院では同僚だった准教授の妻・杏子と娘・あずさとは別居中。
曙医科大学脳神経科教授。ノーベル賞級のアルツハイマー特効薬を臨床研究中のエリート。国や企業とのパイプも太い。
曙医科大学助教。宇賀神とは医学生からの親友。脇本新一の部下だったが手術ミスを起こし自殺する。
中央新聞社会部の医療担当記者。スクープの為には取材協力者も欺くやり手。長身の美人。
病院給食サービス業者最大手の創業者で現会長。お喋りだが行動力もある中年女性。