大きな文学賞を総ナメにするような錚々たる作家が選考する、とある新人文学賞を獲得した「僕」。隣には最愛の妻・キリカ。悲願の作家デビューは順風満帆かと思われたが、友人が作品を曲解して執拗な嫌がらせをはじめる。しかしその結果、僕は妻のとんでもない秘密を隠しきれなくなり……これぞ最怖のサイコ・サスペンス。
購入はこちら1979年、大阪府生まれ。2015年『ぼぎわんが、来る』(受賞時のタイトルは「ぼぎわん」)で第22回日本ホラー小説大賞<大賞>を受賞。同作は鋭い恐怖描写と卓抜した構成力で大きな反響を呼ぶ。つづく『ずうのめ人形』は山本周五郎賞候補になり、ホラー小説界及びエンターテイメント小説界の次世代を担う旗手として注目を集める。『ぼぎわんが、来る』は中島哲也監督により『来る』として映画化され、澤村ホラーは日本中を怖さのどん底に突き落とす。作品には他に『などらきの首』『ししりばの家』『予言の島』などがある。
澤村伊智賞ハンドルネーム:ラスQさん
担当編集者賞ハンドルネーム:鮎井郁介さん
販売担当者賞ハンドルネーム:蜥蜴さん
多くのレビューが現実と虚構を踏み越える、いわゆる「第四の壁を突破する」試みがなされていて、とても面白いと思いました。可能であれば全てのレビューに何かしらの賞を、とも思いましたが、徒に標的…もとい受賞者を増やすのは本意ではないので泣く泣く断念し、ラスQさんのレビューを選ばせていただきました。
今回受賞を逃した方々も決してめげずに、今後お読みになった本や映像作品について、歯に衣着せぬ率直なレビューをネットで発信し続けることをお勧めします。文庫版あとがきでは割愛しましたが、世の中には「掃除」「間引き」が大好きな創作者が大勢いますので。
澤村伊智
ふざけるな、と言うのが読み終えた時の感想だった。あとがき、文庫版あとがき、参考・引用文献一覧の最後の一文字まで読んでの感想だ。何が恐怖小説だ。こんなものは小説ではない。 小説とは、事実をそのまま書くものではないはずだ。そう、これは実話だ。俺には分かる。澤村伊智は狂っている。本当に殺人鬼なのだ。備えねばならない。俺は既に書いてしまった。一章を半分ほど読んだ時点で、くだらない三文小説だとSNSでこき下ろしてしまった。最後まで読んでから書くべきだった。だがもう遅い。ドアの鍵は三重にした。窓は全て内側から塞いだ。外出はしない。食料は通販で何とかなる。無論、宅配の業者は念入りにチェックしなければならない。実際これまでに何人も偽の業者がやってきたが、騙されたふりをして招き入れ、包丁で腿や腹を刺すと全員ボロを出した。彼らは皆「サワムライチなんて奴は知らない、自分は違う」と言い張ったが、俺の目は誤魔化せない。先に刺さなければ殺されていたのは俺だったはずだ。意外だったのは澤村伊智が一人ではなかったことだ。いくら始末してもまだやってくる。何度でも来るがいい。その度に読者の力を思い知らせてやるだけだ。バスルームがそろそろ満杯なのが気がかりだが、外出できない以上これは仕方がない。できるだけ小さく畳むしかない。またチャイムがなった。これも澤村伊智だろうか。
【澤村伊智さんの講評】
私(澤村)の意図するところを最大限に汲んでくださった点が素晴らしいと思いました。ほどなく当該企画担当係よりメールが届くはずですので、住所・氏名・連絡先などを明記の上、返信願います。思わず泣き叫びたくなるような素敵なモノをお届けします。
釈迦に説法かもしれませんが到着するまでの間、くれぐれも異臭や蝿などで近隣に気付かれることのないようご注意ください。よろしくお願いします。
講談社から「この小説について何かコメントせよ」といきなり求められ、困っている。この澤村という作者は私の小説の愛読者らしく、以前にも別の小説を献本されたことがあるのだが、私はホラーだとかサイコ・サスペンスだとかいった非現実的な話が大嫌いなので、未だに読んでいない。いちおうこの『恐怖小説キリカ』は流し読みしてみたが、本作のそもそもの発想は、ある別のミステリ作家(その名前は口に出したくもない)のある文章に多少アレンジを加えて膨らませただけのシロモノだという他ない(ほとんど二次創作である)。読み比べてみれば、そのことは誰にでもわかる。講談社にはこんな愚作よりも、私の過去作「水城優臣シリーズ」をぜひ文庫化していただきたい。そこには駆け出し作家のくだらない日常などではなく、特別な人間の輝かしい軌跡が記録されてあるから。
【編集部より】殊能将之『鏡の中は日曜日』、澤村伊智『ずうのめ人形』でも紹介されている小説家・鮎井郁介氏は、2001年に死去しました。本稿は、今回の『恐怖小説キリカ』文庫化記念キャンペーンに際し、生前の鮎井氏のメールアドレスから編集部宛に突如送られてきたものです。
【担当編集者T講評】
鮎井郁介? 綾辻行人氏の《館》シリーズにも匹敵する本格ミステリ群を書いたあの幻の作家じゃないか。「キリカ」の怨念は過去まで影響し得たのか? そして故・鮎井氏の言うキリカの元ネタ(?)を書いた作家ってまさかあの? 鮎井さん、殊能さんに聞きたくてもああ叶わない……澤村さんは判りますか、きっとあの人ですよね……僕も呪われそうだ。
もう何度目だろう。このレビューを書くのは。書き出しが面白いです。読み進むに連れ、フィクションなのかノンフィクションなのかあやふやになり、混乱し読み終わった頃には何も残らない。何もわからない。これが恐怖からくるものなのか。このレビューを書いている間も背筋が凍る。私はこれを何度も体験している。よそう、また殺されるといけねぇ。
【販売担当者H講評】
この度は『恐怖小説キリカ』をお買い上げいただき、誠にありがとうございました。フィクションなのかノンフィクションなのか、さあ、どっちでしょうね? 『芝浜』は現実でしたけど、『恐怖小説キリカ』はどうかな。とりあえず、口は慎んでおいた方がいいですよ。販売担当としての、最大限のアドバイスです。