『カルマ真仙教事件(下)』濱嘉之

公安は、防げなかった。平成最悪のテロ事件を。

元警視庁公安部の著者が自らの捜査経験をもとに、平成の世を震撼させた無差別テロ事件を、警察小説化!
宗教とは何か。信仰とは何か。人の生と死に密接にかかわりながらも、時に人を人でなくす魔物の本当の正体は、これを書き上げた今でも私にはわからない。────────著者
  • 濱 嘉之(はま・よしゆき)1957年、福岡県生まれ。中央大学法学部卒業後、警視庁入庁。公安部公安総務課、警察庁警備局警備企画課、内閣官房内閣情報調査室などに勤務。2004年に辞職後、衆議院議員政策担当秘書を経て、’07年に『警視庁情報官』で作家デビュー。主な著書に「警視庁情報官」シリーズ、「ヒトイチ 警視庁人事一課監察係」シリーズ、「オメガ」シリーズ、『電子の標的』『列島融解』(すべて講談社文庫)などがある。現在は危機管理コンサルティング会社代表を務めるかたわら、テレビ、紙誌などでコメンテーターとしても活躍している。
    撮影/村田克己

濱嘉之インタビュー「あれから20年『カルマ真仙教事件』を語る」

「自らの捜査経験をもとに、執筆しました──」オウム真理教事件から20年以上が経った今、元警視庁公安部の作家・濱嘉之があの事件を小説化した。大注目の『カルマ真仙教事件(上)』は、いかに書かれたのか。 構成/松木淳
  • ── 濱嘉之さんは元警視庁公安部捜査官で、「警視庁情報官」シリーズ(講談社文庫)や「警視庁公安部・青山望」シリーズ(文春文庫)など、公安警察の活躍を描いた小説を精力的に発表されてきました。あらためて、公安警察とはどのような組織なのでしょうか。

  • 濱  「公安」というのは「公共の安寧」という意味なんですね。ひと言でいえばそれを守るということなんです。具体的にいうと日本はいうまでもなく現在、資本主義体制で、この国家体制を脅かす事案に対応する部署のことです。警視庁公安部を例にとると、公安第一課が極左暴力集団、第二課が労働争議、第三課が右翼団体、第四課が資料統計管理、外事第一課がロシア、外事第二課がアジア、外事第三課が国際テロ、とそれぞれが専門領域について情報を収集して、犯罪を未然に防ぐことで、一般国民の生命、身体、財産の保護にあたるわけです。

  • ── そうした活動を行う組織をインテリジェンス機関ともいいますが、日本には警視庁公安部のほかにもインテリジェンス機関がありますよね。

  • 濱  その通りです。内閣官房の内部組織である内閣情報調査室(内調)、警察庁警備局、法務省の外局である公安調査庁(公調)、ほかに防衛省や外務省にもあります。でもそれぞれに問題があって、たとえば内調のトップは警察庁、次長は外務省からの出向で、プロパーにキャリアはいません。私も出向しましたが、我々は公安講習を警視庁で受けていますから目の色を変えて仕事するわけですけど、そんな我々を知識のないプロパーたちは冷めた目で見ているという感じ(笑)。少なくとも私がいた当時はそんなでした。人が育たないんです。これは内調以外にも言えることですね。公安に関する専門的な教育をするシステムがあるのは警視庁だけでしょう。本来ならアメリカのCIA(中央情報局)やNSA(国家安全保障局)、イギリスのSIS(秘密情報部)といった国家レベルのインテリジェンス機関があってしかるべきだと思うのですが、日本にはそれがない。警視庁公安部がその役割を担っているというのが現状です。

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