PROFILE
石川智健(いしかわ・ともたけ)
1985年神奈川県生まれ。25歳のときに書いた『グレイメン』で2011年に国際的小説アワードの「ゴールデン・エレファント賞」第2回大賞を受賞。2012年に同作品が日米韓で刊行となり、26歳で作家デビューを果たす。『エウレカの確率 経済学捜査員 伏見真守』は、経済学を絡めた斬新な警察小説として人気を博し、シリーズ最新作『エウレカの確率 経済学捜査員VS.談合捜査』も好評を得る。また2018年に『60(ロクジユウ) 誤判対策室』がドラマ化され、注目を集めた。その他の著書に『小鳥冬馬の心像』『法廷外弁護士・相楽圭 はじまりはモヒートで』『キリングクラブ』など。現在は医療系企業に勤めながら、執筆活動に励む。
著者コメント
作品の真実味ってなんだろう。
今さら湧いてきた疑問です。
小説を書く際に重要な課題の一つは、作品にリアリティーを持たせることです。そしてこれは、ミステリー作家の頭を悩ませる難題でもあります。
僕は、自分の人生経験を瑞々しい筆致で描く作品を読むのが好きですが、僕自身が書くミステリーでは、人が死にます。殺します。しかも、凝った殺し方をします。
でも、実際に工夫を凝らした殺人を犯したことも、完全犯罪を成し遂げようと努力した経験もありません。
ただ、前に読んだ記事で、妄想に留めた場合と、実行した場合、脳内では同一の感知をして双方に差異はないそうです。つまり、僕個人の感覚としては、おそらく人を殺しているのだと思います。
この前、行きつけの、本がたくさん置かれたバーで酔っ払い「人を殺しまくってばかりじゃいけないよねぇ」とバーテンダーさんにぼやき、隣のお客さんにギョッとされたことがあります(酔っ払うと脈絡もなく本音が出る性格を直したいと切に思います)。どこかに罪悪感があるのか、その日、バーにあった本の中から選んだのは『絵本の書き方』というものでした。
『第三者隠蔽機関』は、アメリカの民間諜報機関が、日本の警察組織に採用され、不祥事を監視し、素早くもみ消すという話です。
リアリティーがない? そうです。嘘ですから。
でも、ここに、「もしかしたらあるかも」と思わせるのが作家というものです。
嘘に真実味を帯びさせ、文章に起こし、買っていただく。嘘に金を払うくらいの酔狂でなければ、やってられない世の中です。
民間諜報機関『リスクヘッジ社』は、実在する組織ではありません。ですが、民間企業が諜報活動に従事し、人々の動きを監視しているという暴露本がアメリカで流行りましたので、荒唐無稽な話でもありません。
嘘から出た真ではありませんが、嘘を吸収することで、世の中に隠されている真を見つけられればいいなと思っています。