■二つの物語の深層にあるもの
柳内たくみ
二つの物語をほぼ同時期に書いた。
厳密に言えば、『戦国スナイパー』シリーズを書きはじめたのは『ゲート 自衛隊彼の地にて、斯く戦えり』という作品の後なのだけど、『ゲート』の外伝を書き始めた頃からは交互に書いていたこともあってこの二つはリンクしている。別に世界観が同じでキャラが相互に登場するとか言うのではなくて、背景で流れている物が同じなのだ。
テーマは異なる世界との接触と相互の変化。異世界がファンタジー世界か過去かの違いはあるけれど、二つの世界が接触したことで相互の変化が起きるのだ。そしてこの二つは陰と陽あるいはネガとポジのような関係になっている。
どうしてそんなことをしたのかと言えば、一方の小説で書くことが出来ないことにもう一方で挑戦してみたかったからだ。
『ゲート』では、政府からの任務を帯びた自衛隊が異世界に赴き二つの世界は繫がり続けている。そこでは組織のバックアップを受けた自衛官が特地の住人達と交流して、強大な敵と遭遇すれば圧倒的な組織力と機械力で粉砕する。
対するに『戦国スナイパー』では個人が元の所属していた組織、人との繫がりから完全に切り離される。孤立してしまうのだ。
いかに現代人といえども一個人の力などたかが知れている。主人公慶一郎は生きて行くために自分の側から変化をして現地に溶け込んでいかなくてはならないのだ。居所を作り上げていくため、歴史的によく知られている人物と交流して、過去にも変化を引き起こしていく。これによって歴史は大きく変わっていく。そう。これまでは主人公がいた戦国に視点を置きつづけていたから分からなかったが、主人公だけでなく現代という世界でもまた、大きな変化が起きていたのだ。それがいったいどんな変化だったのかは本編を読んでいただきたいのだが、物語の締めくくりは私が常日頃から抱いている妄想に発想を得た。
ある時、街角で青いポストを見つけた。あれ、ポストって赤じゃなかったっけ? と思った。だがそのポストは何度見直しても青かった。ふと、思った。歴史が変化したのでは、と。もしかしたら時の流れすら日常的に何者かの手で都合良く変化させられていて、我々がただそのことに気がつかないだけなのかも知れない。
柳内たくみ
元自衛官。「ゲート」シリーズは全十巻を数え、文庫、コミカライズ含め累計400万部を超える。テレビアニメも大好評。本書は「戦スナ」シリーズ完結巻