■たこ焼きを巡る冒険
北夏輝
美都は三都とかけていて、三つの都とは大阪・京都・奈良を指す。いずれもかつて都が置かれた地であり、境界を接しながらもそれぞれ違う個性を持っていて面白い。「大阪は食い倒れ、京都は着倒れ、奈良は寝倒れ」というのはそれを端的に言い表した表現だ。まあ、最近は交通の便も随分良くなったし、昔とは事情が異なってきているようだけど。
拙著の登場人物にモデルはいないが、物語に登場する場所には大抵モデルが存在する。神社仏閣は勿論、飲食店からカラオケ店に至るまですべて参考にさせていただいたお店が存在する。物語の舞台にする場所を知っていないと、登場人物がそこでどんな行動をとるか想像できないからだ。
本書では大阪・京都・奈良と広範囲を舞台にしたため、様々な場所に足を運んだ。大阪城の天守閣に生まれて初めて登ったり(意外に思われるかもしれないが、大阪人でも大阪城天守閣や通天閣に上ったことのある人は少ない)、東寺の弘法市に足を運んだりした。
作中に大阪人のたこ焼き器保有率を書くと「本当に?」と驚かれたが、これ本当です。実際、私の家にもたこ焼き器がある。子供の頃は月に一度くらいの頻度で晩御飯がたこ焼きになった。自宅でたこ焼きを焼くと、色んなバリエーションのたこ焼きを作れて楽しい。たこの代わりに辛子明太子を混ぜてみたり、ウィンナーとチーズを入れて洋風にしたり、最終的にはなぜかたこ焼きでないものがたくさん出来上がっている。食後に甘いものが欲しければ、ホットケーキミックスにチョコチップを混ぜたお菓子なんかも焼ける。大阪人は日々こうしてたこ焼きマスターへの道を歩んでいるのである。
加えて、大阪の街にはたこ焼き屋の屋台もいたるところにある。地元の商店街にはほんの数メートルほどの距離に二軒もたこ焼き屋があり、小学生の頃は通学路にあるたこ焼き屋でたこせんを買い食いするのが好きだった。たこせんとはえびせんにたこ焼きを挟んだスナックで絶品だ。当時は自宅でもよく再現した。
しかし改めて考えてみると、デートにはあまり相応しくない食べ物だったかもしれない。いかんせん青海苔が……。
北夏輝
1986年、大阪府生まれ。『恋都の狐さん』で第46回メフィスト賞を受賞してデビュー。著書は他に『狐さんの恋結び』『狐さんの恋活』(全て講談社)がある