もうひとつのあとがき

■どんでん返し、あります
東川篤哉

『純喫茶「一服堂」の四季』は、どんでん返しのある連作短編集だ。文庫の帯にもそう謳ってあるから間違いはない。結末には驚きが待っている。と、こう書く傍から、読者の舌打ちが聞こえてきそうだ。「ちぇ、余計なことをいいやがって。こっちは先入観ナシのまっさらな状態で作品を楽しみたいのによ」みたいな恨みの声が。

 いや判る。判ります。私だってミステリ読みの一人なのだから、君の気持ちはよく判る。「衝撃のどんでん返し!」とか「読者は必ず騙される!」とか「結末を読んで超ビックリ。すぐに最初から読み返しちゃいました(二十代女性)」とか、その手の宣伝文句はそれ自体が重大なネタバレだ。それは、こちらも重々承知。だから、この作品も単行本を出す際は「いえいえ、この作品にはどんでん返しなんか全然ありませんよ。だってこれは『謎解きはディナーのあとで』で一発当てた東川篤哉が余勢を駆って書いた、普通の喫茶店ミステリですから」といった態で刊行された。このとき単行本を手にした読者は、文字どおりまっさらな状態で作品に接することができたに違いない(それが愉快な読書体験と成り得たか否かは、読者の感性によるが)。

 しかし、その一方で複数の人から似たような声を聞いた。「一服堂? 読んでない。だってあれ、最近よくあるカフェ・ミステリでしょ?」という声だ。この人たちは、まさしく『純喫茶「一服堂」の四季』という作品のことを、喫茶店を舞台にした日常の謎系ミステリだと勘違いしているのだ。そしておそらくは「喫茶店を舞台にした日常の謎系ミステリなら、岡崎琢磨氏の『珈琲店タレーランの事件簿①〜⑤』が絶賛発売中だから、東川作品はべつにいいや。どうせ『謎解きはディナーのあとで』の二番煎じ的なやつだろうし」などと思っているに違いない。そうに決まっている!

 そんな誤解を解くために(ていうか、こちらが誤解させたのだが)、今回の文庫化に際して「どんでん返しアリ」の情報を解禁することとした。これによって文庫の読者はまっさらな読書が不可能になる。この作品の興趣の一部は、そがれてしまうかもしれない。でも大丈夫。私は確信している。この作品を読めば、衝撃のどんでん返しに読者は必ず騙されて、超ビックリしながら最初から読み返すに違いない──と。

東川篤哉

1968年広島県生まれ。2002年、『密室の鍵貸します』で、本格デビュー。2011年、『謎解きはディナーのあとで』で第8回本屋大賞を受賞

純喫茶「一服堂」の四季
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