■私の新選組
小松エメル
新選組が書きたい──そう思い、作家になったものの、処女作は新選組とは無縁の妖怪時代物。デビュー後に書いた作品のほとんども、新選組とかかわりがないか、あっても、脇役として少しだけ登場したくらいでした。
新選組を書くことが目標でありつつも、そのタイミングはもっと先だと思っていたのは、一番書きたいテーマだからこそ、作家として円熟してから取り組もうと考えていたからです。だから、「新選組を書きませんか」と言われた時、(どうしよう)と一瞬迷いました。当時、私は二十代で、円熟には程遠い、駆けだしの作家でした。こんな未熟な私に、新選組が書けるのだろうかと怯んでしまったのです。でも──。
「小松さんの新選組が読みたいんです」
その言葉を耳にした時、『俺の新』という大好きな漫画が頭によぎりました。(私も、「私の新選組」が書きたい!)
新選組は、若者たちから成る集団です。同年代の私だからこそ書ける新選組があるのでは、と気づいたこともあり、私は「私の新選組」と向き合いはじめました。
新選組を好きになって十八年。何がそれほど琴線に触れたのか、きっかけさえも覚えていませんが、この先もずっと好きだと思えるものを、自分の物語として描ける──こんなに幸せなことはないと考えながら、『夢の燈影』を執筆しました。連載中は締め切りに追われてそれどころではなかった時もありました。それでも、当時を思い返すと、素直に楽しかったと思えます。
源さんの迷い、蟻通の疑念、周平の想い、河合の葛藤、山崎の奮闘、中島の焦燥──本作に登場する彼らは、日々悩み、友の死に涙し、活躍を喜び、たわいないことで笑い合います。彼らは新選組隊士であると同時に、一人の人間であり、夢を持って生きる若者たちでした。生きる時代が違っても、共感できるところがあったはず──これは想像でしかありませんが、私は今でもそう信じているのです。
文庫化にあたり、各話にちらりと登場する瀬川という、架空の隊士の短編を書き下ろしました。人嫌いの皮肉屋で、友の一人もいない寂しい男──そんな彼が最後まで離れられなかった新選組という隊や、そこに生きた人々の魅力を、読者の方々にも感じていただけたら、と願ってやみません。
小松エメル
1984年、東京都生まれ。2008年、ジャイブ小説大賞を受賞しデビュー。9月27日には、沖田総司が主人公の長編『総司の夢』(単行本)を刊行予定