■私の親友
畑野智美
単行本の発売から約三年が経ち、『南部芸能事務所』がめでたく文庫化されることになった。「ああ、懐かしい」と思いながら原稿を読みたいところだが、全く懐かしくない。シリーズ化されて、現在もつづいているため、何度も読み返している。
作家になって一年が経った頃、『南部芸能事務所』の連載が決まった。つまり、作家になってからは最初の一年間を除き、ずっとこのシリーズを書いているということになる。その間、「しばらく休みたい」と思う日もあれば、自分でシーズン5まで書くと決めたくせに「ちょっと飽きた」と思う日もあれば、「もう講談社では、仕事をしたくない」と思う日もあった。シリーズの単行本は全く売れず、「少年ジャ○プだったら、打ち切り」と言って、なぜか笑いをとったりもした。ここには書けないような数々の苦難にも遭い、心はバキバキに折られた。それでも、書きつづけた。
私には、折れた心に添え木をして、そっと支えてくれる親友がいる。
「南部芸能事務所」シリーズは、連作短編だけれど、その中でも全体の主人公となっているのが新城だ。普通の大学生だった新城は、同じ大学に通う溝口と漫才コンビを組み、南部芸能事務所で研修生となり、プロを目指す。芸人の卵というのは、正確な数はわからないが、何千人もいるだろう。新城と溝口は、その何千人の中から抜け出して、卵を孵らせるために、日々努力をしている。
どうしようもないくらいに落ちこみ、私が「シリーズの途中でも終わりにしたい」と考えていた時、新城が来て隣に座った。彼は私の想像上の人物であり、そんなことあるはずないのだけれど、隣にいるのが確かに感じられた。「ここで終わったら、オレはどうなるの?」と文句を言ってきたり、「もう少し頑張ろう」と励ましてくれたり、黙って待ってくれたりした。しばらく話して、「新城のために、最後まで書こう」と、決めた。
芸の道は、甘くない。
険しい道を進むと決めた者同士、新城とは他の小説の登場人物以上にわかり合える部分があるのかもしれない。
単行本から文庫本へと小型化することにより、私の親友である新城が溝口と共に大きく羽ばたいていくことを願っている。
弱小プロダクションを巡る
人々を描くシリーズ第1弾!
畑野智美
’79年東京都生まれ。『国道沿いのファミレス』で第23回小説すばる新人賞受賞。『海の見える街』と本作は、吉川英治文学新人賞候補に。他著に『感情8号線』など