■リアルな小五を描くには
我孫子武丸
本書あとがきには「逃げる話が好きだ」と書いたが、それだけでなく、どうも?いや間違いなく、子供をメインとした話が好きだ。本書は「子供が逃げる話」なので、もう自分的にはどストライクの物語、ということになる。願わくば、似たような嗜好の読者がたくさんおられんことを。
さて、子供の話は好きだし、これまでも何度も書いているのだが、うちには子供がいない。だけでなく、近くに住む仲のいい既婚作家勢のほとんどに子供がおらず、子供と密に接する機会はまったくといっていいほどない。
まあこれが、「現代の女子高生の驚くべき生態」とかを描くものであったら、さすがにどうにかして現役女子高生への取材を敢行したりするのだろうが(あまりに知識が乏しいので)、幸いというかたまたまというか、かつて男子小学生だったことのある身としては、別段現役男子小学生を取材する必要もなかろうと考えた。
学校の様子は昔と今で違っていたりとかするのではないかと多少ネットを使って調べはしたものの、主人公たる小学五年生二人については、あえて取材することもなく、モデルがいるわけでもなく、純粋に記憶と想像、シミュレーションだけで書いた(たいていのキャラクターがそうなのだけれど)。
殺人鬼の知り合いはいないしインタビューもしたことはないけれど、それは読者も同じなのでどれほど好き勝手に書いても「本当の殺人鬼はそんなんじゃありませんよ」というお叱りはまず来ないだろう(いや、来たらちょっと嬉しいけど)。しかし、読者の中には日々リアル子供と接している方々がたくさんおられるはずだ。「(今の)子供のこと、全然知らないんだな」と思われてしまう可能性はある。何せ、ぼくが小学五年生だったのは四十年以上前なのだ!
だから本書を出した直後、書評家の大森望さん(二人の小学生の親だ)にお会いしたとき、こちらから訊いたわけでもないのに第一声が、「リアル小五でした」というものだったのは嬉しかった。大体間違ってなかったということでもあるし、狙いを読みとってもらえたということでもあるから。
そんなわけなので、リアルな小五が逃げる話を読んでみたいという方にはオススメの一冊です。
我孫子武丸
ユーモアあふれる本格推理『8の殺人』で鮮烈デビュー。ホラーサスペンス『殺戮にいたる病』、心温まるミステリー『眠り姫とバンパイア』など作風は多彩