講談社文庫

『あなたは、誰かの大切な人』原田マハ

疲れた心に必ず効く、読む特効薬。

まだまだ人生、捨てたもんじゃない。六つの小さな幸福の物語。

生き方を自由に選べる。それはとても理想的なことに聞こえる。しかし、自由は時として孤独をともなうし、それなりの苦労だってある。「人は結局一人なのだ」という言葉がふと胸をよぎるけれど、でも、だからこそ誰かと心と心が繋がる瞬間(とき)は奇跡的なものなのだ。その喜びを改めて感じさせてくれるのが、この短篇集である。 ──瀧井朝世(ライター)

[特別寄稿]文庫版刊行に寄せて 原田マハ

旅をしているとき、車窓に映る小さな町のなにげない風景を眺めながら、ここにも、あそこにも、誰かの人生があるのだと、いつも思う。

その誰かは、ほかの誰かのことを大切に思っている。けれど、自分も誰かに大切に思われていることに気づいていない。気づかなくても、誰かが誰かを大切に思っている限り、それが幸せな世の中を作り出すんじゃないかな。

見知らぬ町を歩くとき、心地よい風が吹き、なんともいえない幸福感に包まれることがある。それはきっと、おだやかな日常がそこにあるからだ。その日常は、誰かが誰かを大切に思っているからこそ、そこにあるのだ。

あなたがもしも、いま、なんということのない日々を生きているとしたら、それはきっと、あなたが誰かの大切な人であることの証しだ。それが言いたくて、私は、この物語たちを書いた。あなたは、きっと、誰かの大切な人。どうか、それを忘れないで。

こんなときに効く! ~人生に少し疲れたときは、本書を開いてください~
<男の人に嫌気がさしたとき>
「最後の伝言 Save the Last Dance for Me」
主人公:栄美   38歳の美容師

母が亡くなった。だが、告別式に父の姿はない。
父は色男な以外はまったくの能無し。
典型的な「髪結いの亭主」だった……。

<お腹と心、両方が寂しいとき>
「月夜のアボカド A Gift from Ester's Kitchen」
主人公:マナ   19歳のフリーランス・アートコーディ―ネーター

メキシコ系アメリカ人の友人エスター。
彼女は60歳で結婚をして、5年後に夫と死別したのだという。
その愛の物語とは……!?

<大切なものを見失いそうなとき>
「無用の人 Birthday Surprise」
主人公:聡美   50歳、美術館の学芸員

勤務先の美術館に宅配便が届いた。
差出人はひと月前に他界した父。
母には疎まれながらも、現代アートを理解してくれて……。

<母の味が懐かしいとき>
「緑陰のマナ Manna in the Green Shadow」
主人公:〈私〉  40代後半のフリーランス・ライター

イスタンブールを訪れた。
トルコを紹介する小説を書くために。
そこで聞いたトルコの春巻と、母親の味の話は……。

<話し相手がほしいとき>
「波打ち際のふたり A Day on the Spring Beach」
主人公:喜美  フリーランス広告ディレクター、45歳

大学時代の同級生ナガラとは年に4回くらい旅をしている。
今回、近場の赤穂温泉を選んだのには訳があって……。

<自分は誰かに必要とされているのだろうか、と思うとき>
「皿の上の孤独  Barragan's Solitude」
主人公:咲子  48歳、都市開発会社社長

メキシコを代表する建築家、ルイス・バラガンの邸までやってきた。
かつてのビジネスパートナーの「目」になるために……。

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