講談社文庫

昭和探偵 風野真知雄

  • 昭和探偵1

    昭和探偵1

    アイドルの水着、ディスコ・クィーン、汲み取り便所……
    昭和に置き忘れた謎を追え

    西新宿の雑居ビルで開業22年のおっさん探偵・熱木地潮に、起死回生(?)の依頼が舞い込む。テレビ局の友人が特番「昭和探偵」に協力してくれというのだ。お題は絶世の人気を誇ったモデル、アグネス・○○が落とした水着を捜すこと! 懐かしい昭和の謎を、ユーモアたっぷりに解き明かす新シリーズ。

  • 昭和探偵2

    昭和探偵2

    新宿裏通り・熱木探偵事務所に依頼続々
    昭和の“巨悪”に近づく酔いどれ探偵

    セピア色の写真に写るのは、服を着た犬? それとも黒電話? 特番TV「昭和探偵」に出演してから、中年探偵・熱木地潮(あつき・ちしお)に昭和の依頼がどんどん舞い込む。ラッタッタの謎、スペース・インベーダーの取っ手……奇天烈(きてれつ)な依頼と共に、熱木は知らず昭和の巨悪に近づいていく。平成最後の名(迷)探偵、面白さ全開!

  • 昭和探偵3

    昭和探偵3

    酔いどれ探偵、時代の闇を追う!

    調査額過去最高の上客が持ち込んだ昭和の謎は、女子高時代の汗臭い記憶。昭和44年の東大安田講堂、アポロ11号月面着陸、「男はつらいよ」封切り……時代の大きな転換点と、理不尽なうさぎ跳び特訓には何か関係があったのか? 怪しいゴールデン街のママや昭和文学好きの娘にも助けられ熱木地塩は今日もゆく!

「なんだってここは、こんなに懐かしいんだ。」

細谷正充(文芸評論家)

 風野真知雄は、とんでもない作家である。なにが、とんでもない? 作品だ。文庫書下ろし時代小説を中心に、多数のシリーズを抱えているが、どの作品を読んでも、よくこんなことを考えるものだと、感嘆しているのである。市川染五郎主演のドラマがヒットした「妻は、くノ一」シリーズもユニークな設定に驚いたが、まだ序の口だ。なかには、戦国ゾンビ小説『死霊大名』三部作や、刀剣を題材にした時代伝奇小説かと思ったら、最後の展開にぶっ飛ぶ「女が、さむらい」シリーズのような作品まである。なにが出てくるのか分からない、油断のならない作家なのだ。
 そんな作者が2018年9月より講談社文庫で始めた、新たなシリーズは、現代を舞台にしたミステリーである。ただしこれも、一筋縄ではいかない。シリーズを通じてのテーマが、なんと〝昭和〟なのだ。2018年9月に第1巻、10月に第2巻が、文庫書下ろしで刊行された。本書はそのシリーズ第3巻だ。
 主人公の熱木地潮は、西新宿の雑居ビルで開業22年の、おっさん探偵である。その前の職業はパイロット。兄もパイロットだったが、ジャンボ機に乗っていて墜落死した。それを調べるうちに会社の調査部に回され、挙げ句、探偵になってしまったのだ。元妻との間に生まれた娘の葉亜杜はアメリカで暮らしていたが、今では熱木のアシスタントをしている。
 シリーズ第1話「アグネス・ラムのビキニはどこに?」で、テレビ局に勤める友人から、「昭和探偵」という番組企画の協力を頼まれた熱木。元祖グラビア・アイドルのアグネス・ラムのビキニの行方を追いかける。この仕事を見事にやり遂げ、番組も無事に放送された。それが縁になり熱木のもとには、昭和に関係した調査の依頼が、次々と舞い込むのであった。

 山梨でワイナリーをしている相田千鳥の依頼は、昭和53年の出来事に関することだ。この年、ある事情で経営の危機に陥ったワイナリーを、バイトの学生たちが救ったらしい。そして蛍光灯についた中途半端な紐が、謎を解く鍵になるのではないかというのだ。なんともあやふやな話だが、熱木は調査を始める。千鳥からバイト学生たちが「サンタの秘密だからな」といっていたと聞かされるが、なんのことだか分からない。こんなときに頼るのが、新宿ゴールデン街にあるバー「遠い昭和」のママだ。
 もともと熱木は、「リフレイン」というバーに、ママの十文字真紀目当てで通っていた。しかしいきなり閉店になり、1階下の「遠い昭和」に、なんとなく入ったのだ。ところが「遠い昭和」のママは勘が鋭く、有益なアドバイスをしてくれる。熱木はまだ知らないが、ママには複雑な設定があり、昭和の巨悪をひそかに追っているのだ。この流れが、シリーズの裏側に横たわっているのである。
 話を物語に戻そう。「遠い昭和」で、手掛かりを得た熱木は、なんとか真実に到達するのだが、そこにも一捻りあり。これが面白いのだが、私が興奮したのは、手掛かりがスタンリー・クレイマーの映画『サンタ・ビットリアの秘密』であったことだ。この映画、私も大好きなのである。それが物語に組み込まれているのだから、嬉しくてたまらない。昭和ファンのみならず、映画ファンにも読んでほしいシリーズなのだ。

 第11話「永井荷風がハリウッド女優を突き飛ばした?」は、葉亜杜経由で熱木が、ハリウッド女優ジョーン・フォンテインが亡くなる少し前に、恐怖に襲われたような顔になり「カフー、ナガイ・カフー!」と叫んだという話を聞く。日本で生まれ、一時期は日本の学校に通っていたジョーンが、永井荷風と出会ったことがあるのか。それとも荷風がアメリカに行ったときに、ジョーンと遭遇したのか。興味を覚えた父娘は、荷風ゆかりの場所に赴く。まず、美人女優のジョーンと、文豪の荷風を結びつけたアイディアが光っている。
 それとは別に熱木は、ストーカー事件にもかかわる。この事件の扱いが鮮やか。ジョーンの叫びの真相は分からないのだが、ストーカーの存在によって、なんとなく想像できるようになっているのだ。うーん、凄い! 自分の物語への自信と、読者への信頼があるからこそ、このような作品が書けるのだろう。
 ところで熱木の娘の葉亜杜だが、昭和文学好きで、昭和の流行作家をよく読んでいる。梶山季之、藤原審爾、野坂昭如……。第1巻から葉亜杜を通じて披露される、作家論が楽しい。その一方で熱木は、ハードボイルドがお好みである。昭和30年代に日本でも大いに読まれた、軽ハードボイルド作家のカーター・ブラウンにまで触れるのだから、ご機嫌だ。まったくもって、読みどころの多いシリーズである。

 さらにこの物語で、熱木も「遠い昭和」のママの前職や、彼女たちが追う昭和の巨悪の存在を知る。シリーズは続くそうだが、次巻から新たなステージに突入するのだろう。いったい熱木はどうなるのか、作者がいかなる昭和ネタを出してくるのか、ワクワクが止まらない。一刻も早く読みたい。だってここにあるのは、昭和を懐かしく思い出す人が、いつまでも浸っていたい世界なのだから。

『昭和探偵3』解説より一部抜粋

著者コメント

いよいよ昭和が〈歴史〉になってしまいそうだ。だが、年号の区切りにたぶらかされてはいけない。昭和はいまと地続きの、色も臭いもあるついこのあいだなのだ。一見マヌケな事件の陰からいまも潜む昭和の巨悪をひっぱり出してやる!

──風野真知雄
P R O F I L E

風野真知雄

1951年生まれ。’93年「黒牛と妖怪」で第17回歴史文学賞を受賞してデビュー。主な著書には、「味見方同心」「わるじい秘剣帖」「閻魔裁き」「極道大名」などの文庫書下ろしシリーズのほか、単行本に『恋の川、春の町』『卜伝飄々』などがある。「耳袋秘帖」シリーズ(文春文庫)で第4回歴史時代作家クラブシリーズ賞を、『沙羅沙羅越え』(KADOKAWA)で第21回中山義秀文学賞を受賞した。「妻は、くノ一」(角川文庫)シリーズは市川染五郎の主演でテレビドラマ化された。本作は「歴史探偵・月村弘平の事件簿」に続く、著者の本格的現代ミステリーシリーズ。

イラストで見る昭和探偵

イラスト/吉岡里奈
  • 昭和探偵1

    昭和探偵1

    第1話 アグネス・ラムのビキニはどこに?

    アグネス・ラムの追っかけだったという依頼人、イベントで持ち去られた彼女のショーツを探してほしいという。

  • 昭和探偵1
    第2話 ディスコ・クィーンはいまでも玉の輿か?

    新宿のディスコで人気者だった女性、そのとき医者と結婚した友達がいまでも幸せなのか知りたい。

  • 昭和探偵1
    第3話 総理候補が汲み取り便所に落ちた?

    総理候補の女性代議士、田舎にいたとき便所に落ちたことがあるという噂は本当?

  • 昭和探偵1
    第4話 コンビニのない夜は餓死もあり得た?

    同窓会の話題になった学生時代の友人の不審死。あれは餓死だったのか?

  • 昭和探偵2

    昭和探偵2

    第5話 お祖母ちゃんはなぜ、ラッタッタに乗った?

    三軒茶屋の京料理のお店の創業者が、あのとき突然ラッタッタに乗ったのはなぜ。

  • 昭和探偵2
    第6話 服を着て座布団に座ってたのは、犬か電話か?

    セピア色にくすんだポラロイド写真に映るのは、服を着た犬か飾りを着た黒電話か。

  • 昭和探偵2
    第7話 インベーダーゲームの取っ手泥棒?

    インベーダーゲームの取っ手だけがなくなった不思議な事件の真相。

  • 昭和探偵2
    第8話 脱がせたのはズロースか、ブルマーか?

    軽井沢万平ホテルでの古きロマンス、男と女の言い分は食い違う。

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