『森の家』文庫化記念対談
家族とは束縛の鳥かごか、自由に振る舞う楽園か?
『空中庭園』から『森の家』への十年。
『空中庭園』で瓦解しつつある
ゼロ年代の家族を描いた角田光代と、
『森の家』で血縁に縛られない
新しい「家族」を描いた千早茜の、
女子作家本音トーク

角田 『森の家』を単行本から文庫にするのに、すごく直されたって聞いたんですが、だいぶ手を入れましたか。

千早 実は直さなかったんです、結局。直そうと思って時間を頂いたんですけど、全部書き直しみたいになってしまうと思ったので、もうこのままにしようと思って。手を入れたのは語句の並び替えや句読点くらいです。

角田 最初、直したかったのは、千早さんの家族観が変わっていたからなんですか。

千早 技術的なこともありますが、大体はそうです。

角田 私も家族観が大きく変わったことがあるので、ぜひその話について聞きたいですね。

千早 書いたときは未婚で、そのあと結婚して家族の見方が変わりました。そして今また家族観がかなりぐらつくことがあって、書き直すんだったらもっと安定したときにしたいなというのもあり、だったらあの時の家族観をそのままでということにしました。

角田 結婚前は家族とか家庭とか、人がひとつ屋根の下に群れて暮らすようなことについて、否定的だったんですか?

千早 そうですね。家族の理想が高すぎたと思うんです。角田さんの『空中庭園』を読んでいて、最後はほっとしたんですけど、途中とても苦しくて。今日はもう読むのが無理だって思って枕の横に置いて寝たら、自分の怒っている声で目が覚めました。昔から怒っている夢をよく見るんですが久々でした。結婚前にはよくあったんです。誰に怒っているかって、母親に対してなんですよ。夢の中で子どもの頃に戻ってしまう。ああ、復活してしまったと思って。『空中庭園』の絵里子とお母さんがすれ違っていて絶対に交わらない感じが、すごくつらかったです。

角田 『森の家』ではみりさん(美里)とお母さんがそんな関係ですね。

千早 そうですね。

角田 すごくやり合っている。

千早 お母さんは過去のことにしていますが、みりちゃんの中にはまだわだかまりがくすぶっている。でも決裂したわけでもないところが……。

千早 かすかな希望は残してますね。


千早 茜(ちはや・あかね)
1979年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2008年『魚神』で小説すばる新人賞を受賞してデビュー。'09年同作で泉鏡花文学賞を受賞。'13年に『あとかた』が島清恋愛文学賞を受賞。『あとかた』と『男ともだち』が直木賞候補作に。

角田光代(かくた・みつよ)
1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。'90年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞してデビュー。'96年『まどろむ夜のUFO』で野間文芸新人賞、2005年『対岸の彼女』で直木賞を受賞。著書・受賞歴多数。

千早 茜
『森の家』
そこは誰も正しくなくていい。
新しい「家族」のかたち。

自由のない家族関係を嫌う美里は、一回り年上の恋人と彼の息子が住む家に転がりこむ。お互いに深く干渉しない気ままな生活を楽しむ美里だったが、突然の恋人の失踪でそれは破られた。崩壊寸前の疑似家族は恢復するのか?血の繫がりを憎むのに、それを諦めきれない3人。次世代を担う女流作家の新家族小説。

定価:本体600円(税別)
>>講談社BOOK倶楽部