講談社文庫

2017年度最注目の歴史小説『黄砂の籠城』と対になる傑作刊行! 『黄砂の籠城』『黄砂の進撃』どちらから読んでも面白い!

黄砂の進撃 松岡圭祐

黄砂の進撃 松岡圭祐

20万人もの義和団が、列強連合軍500人の籠城をなぜ攻略できなかったのか?驚愕の真相が今、明かされる。

「圧倒的迫力の歴史小説! 中国近代化の芽生えと、人民の秘めたる強さを見よ」

───ジャーナリスト・評論家田原総一朗推薦
解説より◇末國善己(文芸評論家)▼ クリックして全文を読む ▼

(前略)

 陳舜臣、浅田次郎らによって少し視界が開けたとはいえ、まだ空白が埋められていない中国の近現代史の世界に颯爽と降り立ったのが、2017年4月に義和団事件を題材にした大作『黄砂の籠城』を発表した松岡圭祐だった。『千里眼』『万能鑑定士Q』『探偵の探偵』など、ミステリの人気シリーズを幾つも手がける著者が、歴史小説、しかも扱いが難しい中国の近現代史を書いたことに驚きもあった。ただ高いエンターテインメント性の中に、最新の歴史研究をベースにした独自の歴史観、深い人間ドラマ、重厚なテーマを織り込んだ『黄砂の籠城』は高く評価された。

 それから著者は、ホームズもののパスティーシュで、大津事件の知られざる真相に迫る歴史ミステリでもある『シャーロック・ホームズ対伊藤博文』(2017年6月)、キスカ島撤退戦を描いた『八月十五日に吹く風』(同年8月)、川島芳子の数奇な半生を追った『生きている理由』(同年10月)、日独の映像プロパガンダを扱った『ヒトラーの試写室』(同年12月)と、作品のモチーフを東アジア全域の近現代史に広げながら、ハイペースでハイクオリティの作品を刊行する驚異的な活躍をみせ、わずか1年で歴史小説でもスペシャリストになった。

『黄砂の籠城』から約1年、著者が歴史小説の原点に回帰したかのように、再び義和団事件に取り組んだのが本書『黄砂の進撃』である。

(中略)

「扶清滅洋(ふしんめつよう)」(清を助けて洋を滅する)のスローガンを掲げ急速に勢力を拡大した義和団は、1900年、北京に入り在外公館が密集する東交民巷(とうこうみんこう)を包囲した。やはり欧米列強を嫌っていた西太后は、義和団支持にまわって宣戦を布告。これにより、民衆による排外運動は、正式な国家間の戦争になってしまう。

 東交民巷には11ヵ国、約900人の外国人と、迫害を恐れ逃げ込んできた清国人のクリスチャン約3000人が取り残されたが、援軍が到着するまでの2ヵ月弱、籠城して義和団と清の連合軍と戦った。『黄砂の籠城』は、11ヵ国をまとめ実質的に籠城戦の指揮を執った柴五郎(しばごろう)中佐と部下の日本兵の活躍を描いている。

 食料も武器弾薬も減っていく絶望的な状況にあって、冷静かつ勇敢に戦った柴ら日本人は、世界から絶賛された。それなのに、自らの手柄を広言しなかった謙虚な柴たちを、同じ日本人として誇りに感じた読者も多かったのではないか。

 ところが、北京を目差して進撃し、東交民巷を包囲した義和団の側から歴史を捉えた本書では、日清戦争で清に勝利したばかりの日本人は、「倭鬼(ウオーグイ)」の蔑称で呼ばれ、「鬼子(グイヅ)」(西洋人)から手に入れた最新の技術と武器で、清をいじめ、自分たちの国土でのさばっている悪鬼のような存在とされている。これには不快感を抱く日本人が確実にいるはずだし、著者に反論したいと考える人も出るだろう。

 だが著者があえて日本人にとって耳が痛い物語を書いたのは、日本サイド(これは欧米も含む列強側といってもいい)から見ただけでは、歴史を真に理解することはできないとの信念があったからのように思えてならない。

(中略)

 義和団は、少女たちを陵辱したドイツ人神父を殺すなど、キリスト教を排除することで民衆の支持を集めていく。これはムスリム(イスラム教徒)が、イスラム法を忘れ、キリスト教的な政治体制や経済システムを導入したからこそイスラム世界は輝きを失ったので、キリスト教徒や西欧的な価値観に毒されたムスリムを暴力で排除するジハード(聖戦)は許されるとするイスラム過激派を彷彿させる。

 イスラム世界では、西洋世界では過激派とされるムスリム同胞団やハマスが慈善事業を行っており、そこに預けられた貧しい子供たちが思想的な影響を受け、過激派になるともいわれるが、これも義和団が貧困層の物心両面の支えになっていたのに近い。イスラム過激派が自爆テロを行い、義和団が不死身の肉体になったと信じ込ませ肉弾戦を敢行するなど、信者の生死を問わないところも共通している。

 その意味で義和団の興亡を丹念に追った本書は、なぜ世界中で宗教を原因としたテロが起こるのか、そのメカニズムを知る上でも重要なのである。

 主人公の張徳成(ちょうとくせい)は生え抜きの義和団ではなく、外部から招かれ、なりゆきで指導者の一人になっただけに、どれだけ信仰を深めても不死身の肉体など手に入らないことを熟知している。それでも不死身の肉体がまやかしと指摘するのを躊躇するのは、貧しい人たちが伝説や神話を拠り所にしていると知っているからなのだ。

(中略)

 著者は、本書と同時に『黄砂の籠城』と『黄砂の進撃』を編集合本した単行本『義和団の乱 黄砂の籠城・進撃 総集編』を刊行した。『総集編』には文庫二冊にはない章が追加され、テーマがより際立つようになっている。こちらにも目を通して欲しい。

『黄砂の進撃』解説より一部抜粋

新カバーで登場!

  1. ︎「週刊新潮」書下ろし時代小説今年のベスト3選出
  2. ︎「本の雑誌」2017年度時代小説ベスト10選出

「誇らかに叫ぶジャパン・プライド! 日本人を鼓舞する必読の歴史小説」

───文芸評論家縄田一男推薦
単行本同時刊行

事変の全てを語る『黄砂の籠城』と『黄砂の進撃』の編集完全版!

「東アジアのインテリジェンス戦争の先駆けとなった、中国民衆の叛乱を描いた傑作!!」

───外交ジャーナリスト・作家手嶋龍一

義和団の乱

黄砂の籠城・進撃 総集編

清朝末期、支配者の満州人に虐げられていた漢人は武装集団・義和団を組織して北京公使館区域に攻め入る。足並み揃わぬ列強11ヵ国を先導したのは、新任の駐在武官・柴五郎率いる日本だった。籠城戦を耐え抜く列強連合軍だったが、ついに西太后は宣戦布告を決断する。20万人の義和団・清国軍と、列強連合軍500人の闘いの行方は? 中国近代化の萌芽となった「義和団の乱」を描ききる!

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松岡圭祐まつおか・けいすけ

1968年、愛知県生まれ。デビュー作『催眠』がミリオンセラーになる。代表作の『千里眼』シリーズ(大藪春彦賞候補作)と『万能鑑定士Q』シリーズを合わせると累計1000万部を超える人気作家。『万能鑑定士Q』シリーズは2014年にブックウォーカー大賞2014文芸賞を受賞し綾瀬はるか主演で映画化されたほか、2017年には第2 回吉川英治文庫賞候補作となる。『探偵の探偵』シリーズは累計100万部を超え、北川景子主演によりテレビドラマ化される。著書には他に、『水鏡推理』シリーズ『シャーロック・ホームズ対伊藤博文』『八月十五日に吹く風』『生きている理由』『ヒトラーの試写室』『ジェームズ・ボンドは来ない』『ミッキーマウスの憂鬱』などがある。

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