刑事部と公安部。今野敏は《同期》シリーズにおいて、水と油のように決して交じりあうことがない二つの部門のせめぎ合いを、一冊のストーリーの中に、巧みに溶けあわせることに成功した。これは警察小説の世界における一つの奇跡である。そしてもう一点。若手刑事の成長物語という側面も見逃せない。充実のシリーズ第２弾である。

上意下達のピラミッド社会にして、典型的な男世界。今野敏は警察組織の旧弊なありさまを浮き彫りにしつつ、新たな風を吹き込んでみせる。本書のそれは＂同期＂をキーワードにしたネットワーク。主人公宇田川刑事の、人質となった同期の女性刑事への思いやりが、やがて周囲の刑事たちを結束させていく。会心のシリーズ第２作だ。

シリーズ主要登場人物紹介

• 宇田川亮太『同期』『欠落』を通しての主人公。私立大を卒業後、警察官となった。念願かなって本庁へ転属となり現場の一線、警視庁刑事部捜査一課第五係所属となってからさほど時間は経過していない。蘇我は仲がよく、それでいて嫉妬も含めて気になる同期。三十代前半だが古参刑事からは「ボン」と呼ばれる。刑事の仕事にやり甲斐を感じているタイプ。
• 蘇我和彦宇田川の同期で、私立大を卒業して警察官になったところも、年齢も同じだが、やる気を前面に出すタイプではない。いつもゆったり構えており、「世の中すべて、なるようになる」というのが、彼のモットー。しかし、なぜか警視庁公安の眼に止まり、先に本庁に引っ張られた。警視庁公安部公安総務部勤務だったが宇田川の危機を救った後、懲戒免職となり姿を消す。
• 大石陽子『欠落』から加わった登場人物。宇田川・蘇我の初任科同期で所轄時代も親交があった。女性警察官指定捜査員制度で、所轄の強行犯係から推薦され、SITと呼ばれる警視庁刑事部捜査一課特殊犯捜査第一係に配属になった。立てこもり事件で身代わり人質となる。

今野 敏 プロフィール

• 今野 敏（こんの・びん）1955年北海道三笠市生まれ。上智大学在学中の1978年「怪物が街にやってくる」（現在、同名の朝日文庫に収録）で問題小説新人賞受賞。卒業後、レコード会社勤務を経て作家となる。
  2006年『隠蔽捜査』（新潮社）で吉川英治文学新人賞受賞。2008年『果断　隠蔽捜査2』（新潮社）で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞受賞。「空手道今野塾」を主宰し、空手、棒術を指導。
  主な近刊に『プロフェッション』（講談社）、『寮生－一九七一年、函館。－』（集英社）、『豹変』（KADOKAWA）、『精鋭』（朝日新聞出版）、『自覚　隠蔽捜査5.5』（新潮社）、『潮流　東京湾臨海署安積班』（角川春樹事務所）、『虎の尾　渋谷署強行犯係』（徳間書店）、『マインド』（中央公論新社）、『マル暴甘糟』（実業之日本社）、『廉恥』（幻冬舎）などがある。
  2014年「ST 警視庁科学特捜班」シリーズのドラマ・映画化である『ST赤と白の捜査ファイル』、「安積班」シリーズのドラマ化である『ハンチョウ』など映像化された作品多数。

『欠落』（講談社ノベルス）は、小説現代に連載中は、『シフト』というタイトルだった。当番とか、守備位置の変更だとか、ギアチェンジのことだとか、いろいろな意味合いがあり、いい言葉だと思った。

連載を終えてみて、語感が軽いという思いがあった。単行本担当の編集者N氏からも、そのような指摘があり、タイトルを変えることにした。

いろいろ考えたが、なかなかいいアイディアが浮かばなかった。この物語には、三人の警察初任科の同期が登場する。その三人が力を合わせることで、難問を解決していく。

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