講談社文庫

『自分を好きになる方法』本谷有希子 これは、あなた自身の物語。

「本谷有希子╳光浦靖子」『自分を好きになる方法』文庫化記念対談

『異類婚姻譚』(講談社)で第154回芥川賞を受賞して、名実ともに実力派作家となった本谷有希子氏の傑作長編『自分を好きになる方法』が、待望の文庫になった。「読書芸人」3人がそれぞれのオススメ本を10冊ずつ挙げるというテレビ番組で、光浦氏が本作品をリストアップして以来の本谷氏の希望で実現した記念対談。ガールズ・トークというにはじゃっかんのトゲのある内容も含め、話題は多岐におよんだ。

本谷
はじめまして。ずっと光浦さんと対談したいって編集者に頼んでいたんです。
光浦
ありがとうございます。前から一方的に本谷さんのファンで、読んでいました。
本谷
去年放送されたテレビ番組を見ていた人がみんな連絡をくれたんです。妹も「すごいよ! 『自分を好きになる方法』が10冊の中に選ばれてるよ!」って。
光浦
そうやってすぐ連絡されちゃうんだよね。だから、あれ好き、とか無責任に、めったなこと言えない。番組ではだいぶ編集されてしまったから、たしか「この本が好きだ」ってことしか放送されなかったんじゃないかな。ちょっと前にあった「読書芸人」というくくりで、ピース・又吉直樹くんとオードリー・若林正恭くんと3人でした。
本谷
又吉さんは、芥川賞をとる前でしたよね。
光浦
ぎり前くらい。
本谷
光浦さんは、本をどのくらい読んでるんですか?
光浦
2ヵ月に1回くらい「活字病」のときがあって、そのときは1日に1冊読まないといられない感じになる。でも10冊ぐらい読むと病気はぴたっとなくなっちゃう。最近は漫画ばっかり読んでます。
本谷
『自分を好きになる方法』は書店で?
光浦
書店に行って好きな作家さんの本が置いてあると、「これ、まだ読んでない」って思う。で、買ったんだけど、読んだら笑っちゃった。あ、笑っちゃいけないのかな。
本谷
それはご自由に(笑)。
* * *
「本谷有希子╳光浦靖子」『自分を好きになる方法』文庫化記念対談
本谷
そういえば話が飛びますけど、学生時代に光浦さんの良さを人に力説していたことがあるんです。
光浦
ありがとね。
本谷
光浦さんが出てきたときって、他に女性芸人はまだひとりもいなかったですよね。
光浦
近い先輩や同世代はいなかったなあ。清水ミチコさんや久本雅美さんらがいたけど、10歳ぐらい上だし。
本谷
学生時代、ものすごいどうでもいいことをずっと考えてた時期があった。たとえばこの世にいちばん必要なものは何だろうか、とか。ライフラインが断たれたときに芸術や娯楽って真っ先に要らないよねって言われるけど、もしこの場で停電が2時間起こったとして、そのときに人がいちばん求めるものって何だろうって。怖さを忘れて時間を埋めるものって笑いじゃないか。そしたらなんだか知らないけど光浦さんがやっていることが一番必要になると思った。
光浦
超うれしい。けど、わたしはネタとかちゃんとできないから。
本谷
っていうことを力説したらみんなにぽかんとされて、何言っているかわからない人と思われていた学生時代でした。
光浦
それが世間だよ。
本谷
なんであんな荒れた土地に一人で開拓しに行けたんですか?
光浦
大学生のとき、引きこもりの走りみたいなことをやってた。たまに外に出るし、お友だちもいたっていう変わった引きこもりなんだけど。でも、人にあいさつもできないから就職活動も無理で、留年も決まってた。そしたらある日、神の啓示みたいに一番自分の嫌なことをやろうと思いついてネタを見せに行ったんです。その嫌なことをやったら他人にあいさつするぐらいどうってことないだろうって思って。そしたら合格しちゃったの。
本谷
じゃあ、いちばん嫌なことをずっとやり続けている?
光浦
修行僧のように生きてます。
本谷
ある程度、自分に負荷がかかってないとだめな人っているじゃないですか。
暖かいところで生まれた人は楽することに対して罪悪感がなくて、寒いところで生まれた人は楽なことに対してすごい不安になるんだって。何かに耐えるってことがベースにあるから、わたしも自分に負荷をかけておくほうなんです(注‥本谷氏は石川県出身)。芥川賞をいただいた『異類婚姻譚』も、締め切りがない中ではまったく書けなくて、子どもができて「締め切りまでにあげないと二度と小説が書けないかもしれませんよ」って編集者に言われてようやく書いた。あと1ヵ月っていうときに2年半書けなかったものが、一瞬で書けて、やっぱり自分は負荷がかからないとダメなんだなって。
でも、いまはそういう楽することに対する罪悪感も少しずつ薄れつつあって、南米の人みたいに生きたいなと思う。
光浦
それ、すごい思う。南米みたいになりてえと思う。
男性が働かないっていうのがいいな。歳とったら、南に住みたい。
本谷
いちばん嫌いで苦手なことをずっとやっていこうという負荷が外れて、好きに自由に生きていいとなったら、光浦さん楽しめますかね。
多少の緊張感が出ることを自作自演していくと思う。歌のライブをやるって言いだして、チケットは手売り、終わった、でも赤字、みたいな負荷。だけど、負荷はそんなに好きじゃないんだよな。
* * *
「本谷有希子╳光浦靖子」『自分を好きになる方法』文庫化記念対談
本谷
光浦さんのいちばん深い欲望って何ですか?
光浦
わたしがおはようって言っただけで、みんなのテンションがあがって笑顔になる。
本谷
人気者。愛されたいんだ。
光浦
愛されたい。パンダ。
本谷
本で書いてましたね。やっぱり好かれたい?
光浦
すごい好かれたい。
本谷
嫌われたくないっていう気持ち?
光浦
そう。でもややこしいのは、まったく実行していないこと。好かれたいならもっとみんなににこにこして、好かれるようなことを言えばいいんだよね、ぺらぺらと。
本谷
好かれたい人がとる行動をとればいいのに、それはできないんだ。
光浦
そこのうそはつけない。
本谷
ありのままのわたしを。
光浦
受け入れて。
本谷
愛してほしい。
IN★POCKET 6月号より抜粋
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