講談社文庫

時代小説の大本命『百万石の留守居役シリーズ』上田秀人

勝機を得るには最後まで粘り貫け、数馬よ! 数馬は妻の琴をめぐり、御三家・紀州徳川藩主と相まみえる。 要訣 百万石の留守居役(十七) 上田秀人

イラスト/西のぼる

    1. 『要訣 百万石の留守居役(十七)』上田秀人 『要訣 百万石の留守居役(十七)』上田秀人
    2. 要訣 百万石の
      留守居役(十七)

      人気シリーズ 
      堂々完結!

      加賀藩宿老・本多政長の打ち手が功を奏して、政長の嫡男・主殿が藩内で地歩を固めた。
      数馬の妻・琴が、一度離縁された紀州藩の家臣から再嫁を求められる。
      その裏に潜む意図を思索する数馬に対し、紀州藩主・徳川光貞が想定外の揺さぶりをかけてくる。
      数馬の周囲に魔手が迫る!

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上田秀人「百万石の留守居役」インタビュー

上田秀人

──
これまでの上田さんは幕府の上のほうの人物を描かれてこられましたが、最近始まった「町奉行内与力奮闘記」(幻冬舎時代小説文庫)や「日雇い浪人生活録」(ハルキ時代小説文庫)のように、近ごろは比較的下からの目線で描かれていますね。そう考えると「百万石の留守居役」はその初め、きっかけにあたる作品かと思うのですが
上田
そうですね。下からの視点で幕府を見る作品が多くなってきました。
──
なぜ江戸留守居役を描こうと。
上田
留守居役は藩の外交官ですよね。動きに制約のある中での外交官が面白く思えたんです。遊郭なども舞台に使えますし、華やかになります。刀以外の、外交での問題解決の物語に手を出してみようと思ったんです。
──
上田さんの作品は、主人公が中間管理職の立場にあることが多いです。読者にも身近に感じられるのでは?
上田
主人公に制約をかける上役がいて、機嫌を取らねばならないお得意先がいて、その中で難題を解決していかなければならない。いわば江戸時代の企業小説ですね。「百万石の留守居役」は、前田家という企業が幕府という大企業とどうつきあっていくかという話でしょうか。御家騒動などもありますし。
──
ヒロインの琴とは結婚はしていませんが、婚約したまま国元に残しています。遠距離恋愛ものでもあるんですね。
上田
あの小説は、設定がほぼ実在の街なので、読んでいるとわかってしまうんですが、基本はやはりリアルな街でやりたいと思っています。江戸時代で遠距離恋愛を一度やってみようと試みたんですが、ちょっと無理がありますね(笑)。現代ですら仲がもたないのに、当時は手紙のやりとりひとつとっても十日くらいタイムラグができてしまう。離れていながらも通じ合っている部分と離れているがゆえに不信感がつのる部分がある。今回、主人公の数馬をいったん国元に返すことで、互いの存在を確かめ合う機会ができます。それからふたたび離れていく。ヒーローとヒロインがどうなるかは、書いているほうとしても楽しみですね。僕はいつもいきあたりばったりなので(笑)

上田秀人

──
第八巻の『参勤』では、藩主のお国入りに、主人公の数馬が大名行列の差配役というか統轄、交渉役とし奔走します。
上田
ツアコンですよね(笑)。旗もって、事前に何時に何人来ますからよろしくとふれてまわる。参勤留守居役というのは僕の創作なんですが、江戸を離れると、宿場町も出てくるし、風景も変わってきます。加賀に帰ったら帰ったで、江戸での殿様と国元での殿様の違いなども楽しんでいただこうかと考えています。
──
参勤交代をテーマにした小説では、浅田次郎さんの『一路』や土橋章宏さんの『超高速!参勤交代』などがありますが、今回のは三千人の大行列で、規模も大きく、苦労もまた違いますね。
上田
土橋さんとは山村正夫記念小説講座でも顔見知りですし、僕も面白く読ませていただいています。加賀藩の記録をみると、出発と到着とで人数が違う。国元に着いたら何人か足らんぞ、ということがあったようです。 小藩だとありえないことですが、途中で欠け落ちちゃうんですね(笑)。大人数ならではのトラブルも書 ければと思います。元禄の頃までは通り道になっている小藩にとっては怖さもあったでしょうね。五万石くらいだと国元でも藩士が千人くらいでしょう。それが加賀百万石だと三千を超える武装集団が領内を通っていくわけですから。だから交渉役の出番がある。通過する藩にお金を包んだり贈り物をしたり、世の中をうまくまわすための工夫がいります。
──
大名行列に出くわすとただお辞儀をするものと思っていましたが、平伏したり片膝をついたり、藩同士のつきあいの度合いによってもいろいろあるんですね。大名行列が武士の格式や体面のぶつかる場だというのがよくわかりました。
上田
それに、行列は進むより止まるほうがたいへんです。誰かが急に止まると将棋倒しになってしまうし、一度停止すると再び動きだすまでがたいへんなんですね。揺れる駕籠に乗り続ける殿様も辛い。狙われることを考えると、むやみに戸を開けて外の景色をながめてばかりいるわけにもいきませんし。
──
殿様が床下から狙われないように、本陣の畳に鉄板を敷くのには驚きました。
上田
ほんとうにあったようですね。風呂桶も組み立て式のを運んでいたようですし。だから遠方の薩摩藩などにしてみれば拷問ですよ。参勤交代は華やかに見えるけど、しんどかったはずです。藩のお金がなくなるのも当然です。
──
このシリーズの特色である交渉ごとで問題を解決していくというのが、第八巻ではよくあらわれていますね。
上田
刀で解決せず、口先で丸め込む。それをこのシリーズでは見せていきたかったんですね。

「百万石の留守居役」人物紹介

留守居役とは──

若すぎる強すぎる留守居役「瀬能数馬」に降りかかる五つの難題
将軍家・前田家関係者係図
『百万石の留守居役』シリーズ既刊
〈以下続刊〉
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