佐藤さとる×有川浩 対談

佐藤さとる×有川浩 写真

子どもは子ども扱いされたくない

佐藤
ところで、児童文学って、子どものための文学だと思う?
有川
子どものため、と決めつけられると私はちょっと違和感がありますね。大人も充分楽しめるものだと思いますから。それに、子ども向けに書かれていたら、私はこんなにコロボックルにハマっていないと思います。『誰のために書いているのか』と聞かれたら、それは自分の心の中に住んでいる読者のためじゃないでしょうか。もちろん、読者の中には自分も含まれていて。なおかつ、子どもが読んでもわかるように書いてあることが素晴らしいんだと思います。
佐藤
ほとんど正解。ぼくはね、児童文学というのは子どもにも理解と鑑賞ができるように配慮した文学形式、と定義している。でも昔から出版社の自己規制があって、小学5年生向けだったら、4年生で習う漢字までしか使ってはいけないなんて言われたりする。それはそれで構わないんだけどね。
有川
文科省の行っている文字使いにも従わなくていいと思うんですよ。背伸びして読みながら知らない言葉で辞書を引くのも楽しみのうちだし。知らない漢字でもふりがなで対応できるし。子供のころ、ふりがなで漢字の読みをいろいろ覚えましたよ。
佐藤
〝子どものため〟って一種のおためごかしだよな。
有川
子どもって、子ども扱いされるのが一番嫌いなんです。コロボックルは私たちを子ども扱いしないでくれたからいいんですよ! 大人が読んでも読み応えのある文章で書かれているからこそ好きだったんです。

100調べて10使え

佐藤
それにしても、有川さんが書くコロボックル物語は楽しみだね。
有川
書かせていただけるのなら、小さい話から……。ペリー・ローダンのように、作者が変わってもどんどん続いている作品がありますよね、コロボックルも、読み継ぐことはもちろんですけれど、そんな風に書き継ぐことができればと思いますね。流れを切ってはいけないものだと思うんです。コロボックルは世代間で受け継がれていくべき宝物だし、文化だと思います。パソコンやゲームが当たり前の子どもたちの前にコロボックルが現れたら、絶対にそっちのほうが楽しいし、夢中になるはずですから。
佐藤
『だれも知らない小さな国』を書いたときは、「おかしな話ができちゃったけど、これなんだろう?」って思った。僕の師匠の平塚武二先生に「いろんなところに送れ」と言われて、百部ほど作った私家版を、出版各社に送ったら、すぐに講談社から速達が届いたんだよね。実に幸運だった。平塚先生に100調べて10使えって言われたのを思い出す。そんなつもりで書いたからね。
有川
私も、児玉さんとの対談でも話したんですが、膨大に調べて膨大に捨てろ、という言葉を大切にしています。
佐藤
慣れてくるとそれほど苦にはならない。

二人の意外な共通点とは

有川
ところで、一つ伺ってもいいですか? 私、デビューする前に書きためた小説を夫に見せたら、『君はいつか小説家になるよ』って言ってくれて、それが支えになったんです。今でも原稿を書いたら最初に読むのが夫なんですが、やはり先生も――。
佐藤
うん、まあ、そうだな
奥様
ええ。この人は書き手、私は読み手。
有川
いい伴侶に恵まれているっていうことも先生と私の共通点ですね(笑)。