佐藤さとる×有川浩 対談

佐藤さとる×有川浩 写真

嘘をつくなら全力でつけ

佐藤
そんなうそ話書いて何になるって言われたこともある。しかし、そうやって創った虚像世界が、なぜかある真実を表象してしまうんだよ。ファンタジーはそこが面白い。
有川
コロボックルは本当に隙がないですからね。細かいウソの積み重ねがすごい。子どものころはそう考えていませんけれど、大人になって読み返して、ああ、本気で騙してくれてたんだって思いました。
佐藤
少しずつ、少しずつ真実からずらしていく。そうすると壮麗で強固なアーチになる。第一作でも、登場する人間たちは全部本名を隠しているでしょ。そうしておかないと、小人の存在感が薄れる。せいたかさんとかおちび先生とか。これも嘘をつくための手段だったんだよね。
有川
私はこの本で嘘のつき方を教わりました(笑)。今、作家としてやっていけてるのは先生のおかげです。コロボックルを読んでなかったら作家になれてないんじゃないかなぁ。
佐藤
それは嬉しいね。でも有川さんも強烈だね。『図書館革命』の取材では、実際に英国大使館から市ヶ谷から歩き回ったんだって? リアリティを出すために実際にそこまでやる人は少ない。
有川
地図だと景色が見えないので……。
佐藤
僕はいかなきゃわからないところは書かないことにしている(笑)。
有川
私は海外の話は書けないです。飛行機3時間以上ダメなので(笑)。
佐藤
僕も旅行が好きじゃないんだよなあ。新幹線に備え付けの雑誌にエッセイを頼まれたことがあるんだけど、そのころの僕は熱海から小田原までの一駅しか新幹線に乗ってなかった。

そこに奥様が登場、お茶を入れてくださった。有川さんの目が奥様に釘付けに。

佐藤
あの人は、結構な美人だったんだよ。でね、バカなんだよ。姉さんがすごい日本美人、それですぐ下の妹がびっくりするほど美人なんだ。真ん中にひとりだけ日本人離れの顔をしているから、本人は美人だってずっと気がつかなかったらしい(笑)。そうでないと僕なんか相手にしてくれなかったよ。中学の国語の先生だったんだけど、あと足が3センチ長かったら大船だって密かに言われていたんだ。
有川
あの、奥様がおちび先生のモデルですよね。お目にかかった瞬間にそう思いました。ということは、やっぱり先生がせいたかさん……。
佐藤
せいたかさんは佐藤さんでしょってよく言われたよ。でも、ぼくはせいたかさんほど人間ができていないからね。まあおちび先生は……近くにいた人だからね。

「有川さん、書いてみたら」

佐藤
しかし、『阪急電車』はよくできてるね。誰でも考えることかもしれないけれど、なかなかこうはいかない。それぞれが同じ電車に乗り合わせて、その中で起こる話が重なって、そのままになっていない。女の人でないとこうはかけないって思ったのは、花嫁さんの話。あれは最高だった。で、その後がいい。これは残っていく作品だと思うよ。関西弁もよかった。
『空の中』と『海の底』も読んだんだけど、これは力業(ちからわざ)だな。破綻がおきそうでおきない。こういうの、あんたしか書けないよ。
ぼくは、コロボックル物語を書き終えたときに、オープンエンドにした。誰もが、禁則さえ守ればコロボックルをかけるようにしたいと思って。でも誰も書いてくれない。有川さん、書いてみたら。

しばし有川さん絶句。

有川
書かせていただけるのなら……。
佐藤
是非試みて欲しい。それで、『図書館戦争』の話になるんだけど、あれは自衛隊の階級に準じているよね。これを最初に読んだ時、同じようなこと考える人がいるんだなあって思った。僕も自分で軍隊組織を考えていたんだけど、力量がなくって書けなかった。
でもちょっと文句があるんだ。この階級と階級章が合ってない。三等が一本線でしょ、二等が二本線はいいとして、一等が三本線。それってわかりにくい。
有川
はい……。
佐藤
昔から、僕は一等、二等という呼び方がいけないと思ってたんだ。――つまり、階級章考えるなら、相談してくれればよかったのにっていうことなんだよ(爆笑)。
有川
相談して良いと知っていたら、相談させていただいてましたよ!(笑)。