もうひとつのあとがき

■謎とホラーの迷宮へ
小島正樹

 おどろおどろしい、怖い世界に浸ってほしい。トリックの連打に驚いてもらいたい。そしてできれば「やられた!」と、心の中ではなく声に出して言ってほしい。

 まだ見ぬ読者の方々への、そういう思いを込めて書き始めたのが『武家屋敷の殺人』の原型となる物語です。

 書きあげて、物語を再読しました。

「へとへとになるまで、この物語に取り組んだのか? 全力で向き合ったのか?」

 そんな自問がやってきて、すぐ、書き直し作業に入りました。

 再び書き終え、けれど自問は消えません。

 書き直し、また書き直す。

 改稿作業の中、じわりじわりと物語に取り込まれる感覚に陥りました。そして自分の細胞すべてが、行間に溶け込むような心地になって、ようやく脱稿したのです。

 自分のありったけを捧げた原稿。それを講談社ノベルスから上梓できたのが、二〇〇九年のことでした。

 それからずっと、ひたすら小説を書き続けました。馬鹿な僕でも少しは成長したのかなと思い、そこへ文庫化のお話を頂いたのです。

 成長の証をすべて、この物語にぶつけよう! そう決意して、文章を徹底的に直して人物造形に手を入れたのが、文庫版『武家屋敷の殺人』です。

 物語の舞台は、忌みと呪いに満ちた武家屋敷です。

 江戸時代。その武家屋敷で死人の黄泉がえりがありました。

 昭和。悪魔に魂を売り渡した女性が武家屋敷で暗躍し、ミイラの蘇生や死体の瞬間移動が起きます。

 平成。屋敷の離れにあった氷室が忽然と消え失せ、密室にミイラが出現。首のない死体が見つかって、葬儀の夜に死人が墓穴から這い出します。

 幾多の謎と恐怖を纏い、物語は忌まわしき真相へ向かいます。しかしそこには大きな落とし穴が真っ暗な口を開けていたのです。

 ひとつ謎を解くと、別の謎が立ちふさがる。それを解けば、新たな謎が現れる。

 謎を目一杯詰め込んだ、奇怪で異様なホラーミステリ。

 謎の迷宮である武家屋敷へのご来訪、心よりお待ち致しております。

このどんでん返し、ありえない!
世にも奇妙なホラーミステリ

小島正樹

2005年、島田荘司氏との共著による『天に還る舟』でデビュー。15年、『扼殺のロンド』で第6回エキナカ書店大賞受賞。他著に『呪い殺しの村』など。

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