■ごはんは、悩ましい
長野まゆみ
わたしはほぼ一日じゅう家のなかで過ごし、三食とも家で摂ることが多く(おやつも)、何を食すのか、毎日悩んでいます。
四十歳前後まで体重は横ばいでしたが胴まわりは肥え、二十代のころよりずんどうでした。
しかし世の中のファッションの主流はヒップハングとなり、洋服を買う現場ではウエスト太目でも、従来のサイズで問題なく、ほんとうに危機を感じたのは四十代なかばに体重が増えはじめたときでした。
さて、どうしようか、と考えるも、食品に関する基礎知識をほとんど持っていません。そこで、食品別のカロリーのガイドブックや一般向けに書かれた栄養学の本などを買いこんで、にわか勉強をはじめました。
すると、適正な体重を維持するための食生活というのは、かなりさまざまな制限をしなければ達成できないことがあきらかになりました。血糖値や血中コレステロールや血圧のことまで意識するとなれば、さらなる節制が必要となります。
勝手にマイブームをつくって熱中しやすい性質なので、毎日の食事のカロリーを品目別に記録することをはじめました。
肉や野菜は油をつかわずに蒸し器で調理し、クリームのかわりに豆乳やおからで代用します。麺類は分量を減らしてナスの細切りやズッキーニの千切りでカサ増しをします。パンケーキはおからと水で、オムレツも卵一個を豆乳で増量してつくります。
などという情報を編集者と交換しているうちに、それを小説にしましょう、という話になり、だれに語らせるの? と悩んだすえに猫が語ることになりました。ですので、この物語の主役は猫さんではなくカロリーなのです。
ところで、この本が文庫本となるいまでは、カロリーではなく糖質が問題視されるようになりました。たとえば、小腹がすいたときに、チーズケーキ一つと高菜のおむすび一つを選択するなら、どちらを選ぶべきでしょう。カロリーはチーズケーキのほうが百キロカロリーほど高めですが、糖質は半分以下です。
つまりあきらかに体に悪そうなチーズケーキのほうが、糖質制限の考え方では太る要素が少ないのです。
毎日の献立をどう組み立てるのか、悩みはつきません。
長野まゆみ
東京都生まれ。1988年に『少年アリス』で第25回文藝賞を受賞。2015年には『冥途あり』で第43回泉鏡花文学賞と第68回野間文芸賞をW受賞。著書多数