もうひとつのあとがき

■猫柳は何に失敗したのか?
北山猛邦

『猫柳十一弦の失敗 探偵助手五箇条』は猫柳を探偵役とするシリーズの二作目にあたります。この小説の最大の謎は、おそらくタイトルの『失敗』の意味ではないかと思います。今回、文庫化するにあたって、久々に自作を読み返したわけですが、作者ながら「どうしてこのタイトルにしたんだっけ?」と首を傾げました。その謎について、ここで迫っていきたいと思います。

 まずタイトルに『名探偵の名前+名詞』という形を用いるのは、本格ミステリの正統的なやり方といえると思います。『シャーロック・ホームズの冒険』とかですね。猫柳のシリーズでは、本格ミステリの「お約束」を踏襲することを基本としており、一作目で『猫柳十一弦の後悔』という形で、まずそれに倣ったというのが、根本にあります。そして猫柳という探偵には、ネガティブな単語が似合うと思ったので、二作目は『失敗』となりました。このへんの事情については覚えています。しかし最後まで中身を読めばわかりますが、なんでよりによってこの単語が選ばれたのか、疑問が生じます。作者からしてそうなのですから、読者にいたってはなおそうなると思います。

 さて、猫柳のシリーズは「お約束」をなぞることを基本としながら、さらにその「お約束」を外すことがテーマになっています。今回、読み返してつくづく思いましたが、この小説は本当にひねくれていて、真面目な顔をしながら、何一つまともなことをしていないという、作者の精神性を疑うような構成になっていました。たとえば章タイトルの副題。本格ミステリの通常の構成を「さかさま」に並べて、まるで逆再生するような形式になっています。あと章ごとに『探偵助手五箇条』を一つずつ掲げていますが、中のストーリーでは、それぞれの条件をないがしろにする様が描かれています。

 これらのことからわかるように、この小説では、「お約束」を外すというテーマから派生して、さらに「裏」とか「逆」とか「反対」といったことがテーマになっているのです。

 その事実に気づけば、タイトルの謎も解けそうです。ぜひ皆さんもこの謎解きにチャレンジしてみてください。

 まあ、そんなややこしい話はともかく、猫柳先生は実際に失敗をやらかしているんですけどね。

北山猛邦

1979年生まれ。『「クロック城」殺人事件』で第24回メフィスト賞を受賞しデビュー。衝撃のラストが待つ『私たちが星座を盗んだ理由』が大好評

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