もうひとつのあとがき

■この物語を読まざるは「惜しむべし」
仁木英之

 大河ドラマの「真田丸」が話題になっています。三谷幸喜さんの解釈による武将たちの新しくも親しみやすいキャラクター像が視聴者の心を捉えているようです。これより後、クライマックスである大坂の陣、そしてタイトルにもなっている『真田丸』へと物語は進んでいくのが楽しみです。大坂の陣で豊臣方の主力として活躍した武将たちを『五人衆』『七将星』と称することがあります。大河ドラマではキャストの発表も楽しみの一つですが、魅力的な俳優さんたちが配されていますね。

『真田を云て、毛利を云わず 大坂将星伝』は、大坂五人衆の一人、毛利勝永を主人公としています。五人衆というのはおなじみの真田信繁(幸村)に加えて、後藤又兵衛、長宗我部盛親、明石全登、そして毛利勝永を指します。いずれ劣らぬ武将ながら、とりわけ毛利勝永の知名度は低く、私も彼について調べ始めるまでは全く知らなかったと言っても過言ではありませんでした。

 しかし、彼について知れば知るほど、その魅力に取りつかれていきました。父の毛利吉成は秀吉が無名の頃よりつき従い、黄母衣衆という近習の一人として派手な戦功はないながら活躍してきました。そして秀吉が九州を平定したことをきっかけに、ついに大名となります。勝永の名が大きく天下に知られたのは、父が豊前小倉に六万石を与えられた際に十歳にして(!)一万石を与えられた時です。隣の豊前中津にはこれも大河の主人公となった黒田官兵衛が配されていました。勝永たちの肩には大きな期待と責任が乗っていたことでしょう。こんな武将がいたことを、ご存知でしたか?

 勝永は朝鮮出兵、関ヶ原と大きな戦いを経て成長していきます。歴史を彩る英雄たちとの交わりは彼を強く大きくし、やがては滅びの戦いへと導いていくのですが、不思議なことに、そこには悲壮感とは別の何かがあるように書いていて思ったものです。その別の何かを、読者の皆さまにも感じていただけたらな、と願っています。

 この物語、今年この時に読まざるはまさに「惜しむべし」。『真田を云て、毛利を云わず 大坂将星伝』、真田目線とはまた一味違った戦国のクライマックスを、ぜひ本書でお楽しみください。

仁木英之

1973年大阪府生まれ。信州大学人文学部卒業。2006年『僕僕先生』で第十八回日本ファンタジーノベル大賞を受賞。他の著書に『まほろばの王たち』など

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