もうひとつのあとがき

■気味の悪い古本
三津田 信三

 N社の編集者Iとの打ち合わせの際に、以下のような話を聞いた。

 今年の一月、Iの携帯電話にS社の編集者Mから、「怖いことがあった」と連絡が入った。某所の古本屋の百円均一コーナーで『○○入門』を買って帰ったところ、二枚のカラー写真が挟まっていたという。

 それは父親と思しき男性と、二人の子供が写っている古い写真だった。三人がいるのは和室だが、その背後にはアイアンラックと呼ばれる棚があり、ぎっしりと大型の本が詰まっている。ただし本の種類までは分からない。三人の様子は見ようによっては、まるで何かを拝んでいるようにも映ったが、もちろん詳細は不明である。

 これだけで済めば別に問題もないのだが、Mが思わずIに連絡したのは、三人の顔に白くて四角い紙が、べったりと糊づけされていたからだ。わざわざ白い紙を写真の顔の大きさに切って、それで三人の顔だけを隠してある。写真は二枚あったがほとんど同じ構図で、どちらも三人は顔を潰されていた。

 本からは写真の他に、S県のコンビニのレシートも出てきた。その日付は今から十年前で、本の刊行年が二十八年前、写真が撮られたのは恐らくその間と思われる。ちなみに本の表四には、某古書店の値札シールが残っていた。

 ひょっとするとこの本は謎の写真とレシートを挟んだまま、次々と人手に渡っているのではないか。

 ……などという話を二人でしているうちに、すっかりMは怖くなったらしい。「返金を求めずに古本屋へ戻したい」と言い出したが、そういうわけにもいかない。かといって持ち歩くのも厭なので、新聞紙に包んで燃えるゴミに出したという。

 Mとの話のあとIは、インターネットで検索してみた。すると数人の遊女を撮った写真に行き当たった。その写真では真ん中の二人の顔が、なんと白く削り取られている。さらに調べたところ、「人が亡くなったら、その人物の写真の顔を削る風習が昔はあった」という書き込みが見つかった。

 二枚の写真を本に挟んだ時点で、あの親子は死んでいたのか……。しかし誰が、いったい何のために……。

 という風な得体の知れぬ気味の悪い話が、本書には載っているかもしれません。

三津田 信三

編集者を経て『忌館 ホラー作家の棲む家』で二〇〇一年デビュー。『厭魅の如き憑くもの』に始まる〝刀城言耶〟シリーズなどホラー・ミステリ作品多数


「誰かの家」特設ページはこちら

▲ページトップへ