もうひとつのあとがき

■眠る「淫心」に火をつけて
蒼井 凜花

 CA、オスカープロモーションのモデル、六本木の高級クラブのママ、そして現在の官能小説家―私が歩んできた道だ。

 人生の大半を「女の園」で過ごした私は、個性あふれる魅力的な女たちに刺激を受けつつも、時に翻弄され、傷つき、毒され、しかしその分逞しくもなり、良くも悪くも大いに影響を受けてきた。

 今回、刊行されることとなった『女唇の伝言』は、年齢も立場も違う十二名の女たちが、ネットを通じて自身の性体験を赤裸々に告白するというもの。CA、人妻ウエイトレス、女子アナ、女教師、ナースなど、様々な女たちが登場する。

 ヒロイン像は、過去に出会った女性からヒントを得たものもあるし、私自身に内包された「分身」もいる。

 元々は、週刊現代で連載された官能小説で、文庫化にあたり、書き下ろしも加えさせて頂いた。

「週刊現代の官能連載」といえば、官能の巨匠である宇能鴻一郎氏をはじめ、睦月影郎氏、神崎京介氏、草凪優氏とそうそうたる顔ぶれが彩ってきた。そのバトンを引き継ぐとあって、喜びや感謝とともに、相当なプレッシャーを感じたことも事実だ。

 しかし、体育会系出身ゆえか、やると決めたら徹底するのが私の強み。連載中は、「とにかく『女唇の伝言』を最優先」で生活し、「旅行には行かない」「食中毒を警戒して生モノは食べない」ことを自分に課し、担当編集者と二人三脚で乗りきった。

 その甲斐あって、人気投票では上位にランクインしたことも多々あり、読者の皆さんに喜んで頂けた嬉しさが執筆への大きなエネルギーとなった。

 担当編集者からのアドバイスは、一般的な官能小説にありがちな、「都合よく男に体を開く女」を禁じるものだった。男性向け官能小説は、当然のように、この「お手軽に感じてしまう」タイプが描かれがちなのだ。

 しかし、『女唇の伝言』では、いかにも男慣れした女は登場しない。

 リアル過ぎず、かといってファンタジーにも偏らず、「ひょっとしたら、俺にもこんなアヴァンチュールがあるかもしれない」と、想像頂けるような男女の物語を描いた。

 ご自身を主役の男性に置き換えてお読み頂き、普段、心の奥底に眠る「淫心」に火をつけてくだされば、作者冥利に尽きる。

蒼井 凜花

航空会社のCA、モデル、六本木のクラブママを経て、2010年に、官能小説家としてデビュー。第2回団鬼六賞ファイナリスト。講談社文庫は初登場


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