もうひとつのあとがき

■もうひとつの京都
姉小路祐

 京都市における東西のメインストリートの一つである四条通りの車道を狭くして、歩道を拡げる工事が、平成26年から27年にかけて実施された。

 京都市政の施策で感心するものは、私個人としてはめったにないのだが、これは例外であった。

 その後も京都を訪れる内外の観光客は相変わらず多く、拡幅された四条通りさえけっして広くは感じられない。四条通りと交わる川端通りから祇園の八坂神社までは、四条通りであっても拡幅されなかったので、人の渋滞が起きてしまってなかなか前に進めないことが多い。桜や紅葉のシーズンとなれば、なおさらである。

 とりわけ外国人観光客の増加はめざましい。平成27年には、京都市における年間の外国人宿泊者数が初めて300万人を突破した。京都市の総人口は約147万人であるから、総人口の倍以上の外国人が一年間に宿泊している。宿泊を伴わない来訪者数を含めたら、もっと数字は増える。JR京都駅は、大きいキャリーバッグを持った外国人で毎日溢れかえっている。

 彼らの中に、もしもテロリストが紛れ込んでいて、キャリーバッグの中に爆弾が入っているとしたらどうだろうか。

 京都駅や観光名所で、爆弾テロがひとたび起きれば、さまざまな国の人間たちが多数犠牲になる。そのインパクトは計り知れない。世界屈指の有名人気観光都市だけに、テロリストからすれば標的として申し分ないだろう。

 そんな京都であるが、テロに対するガードはけっして堅くはない。京都は、応仁の乱では破壊や放火の憂き目にあったが、それ以降は似た経験はほとんどない。太平洋戦争における空襲は他都市に比べて、ごくわずかであった。地下鉄サリン事件のようなものも起きていない。そこに気持ちの緩みはないだろうか。

 京都にはもうひとつの怖い顔があると言われる。たとえば、はんなりした京都弁を使う京都人には、底意地の悪さがあるという指摘がある。「京の茶漬」に代表される二面性だ。だが、京都に生まれ育った私に言わせれば、「京の茶漬」はほとんど絶滅している。現代京都の怖さを探すとしたら、テロへの無防備さのほうが、はるかに怖いと思うのだが、どうであろうか?

姉小路祐

1952年、京都市生まれ。『動く不動産』で第11回横溝正史賞を受賞。「刑事長」シリーズ、「署長刑事」シリーズなど、警察小説を中心に、著書多数


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