『ともにがんばりましょう』塩田武士

第7回山田風太郎賞受賞 第40回週刊文春ミステリーベスト10[第1位] 2017年本屋大賞ノミネート 『罪の声』が話題沸騰中!

これぞ男の生きる道。

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『罪の声』15万部突破記念&『ともにがんばりましょう』文庫化記念トークライブ開催!

昭和最大の未解決事件、グリコ・森永事件を題材にした『罪の声』は、昨年8月に刊行されると新聞、雑誌、SNSなどであっという間に話題になり、その評判がいまも広がりつづけている。著者の塩田武士氏は神戸新聞社出身。記者時代に培われた取材力が発揮された作品は『罪の声』だけではない。最新刊『ともにがんばりましょう』も圧倒的リアリティで読ませるエンターテインメントだ。作品と、作家を特集で紹介しよう。

塩田武士スペシャル・インタビュー『小説はエンターテインメントの王様だ。』聞き手・構成/松木 淳 労働組合に関わったことのある人、誰もが「経験者でなくては書けない」と言う『ともにがんばりましょう』。実際にはどうだったのか。著者の塩田氏に作品の背景について、そして話題作『罪の声』について語っていただこう。
  • ──
  • このたび文庫化される『ともにがんばりましょう』(2012年刊)は、新聞社の労使交渉をユーモラスに描いた異色作です。これは塩田さんの実体験にもとづいて書かれたと聞いていますが。
  • 塩田
  • そうです。僕はもともと作家になりたかったんですが、大学を卒業したときにはまだその筆力もないし、新聞記者になったら取材を通じて小説のネタもいっぱい拾えるかと思って神戸新聞社に入ったんです。だから入社動機は非常に不純です(笑)。実際、記者時代の取材ノートって百冊くらいとってあるんですが、1冊目から目次と日付を入れているんです。これは小説を書いているときに、気になることがあったらすぐにその箇所を見つけられるようにするためです。いまでもそのノートを開くことは多いのですが、ホント悲しいことに、字が汚くて読めない(笑)、四割くらいしか判読できないんです……。
    神戸新聞社には十年お世話になって2012年の2月に退社したんですが、その前年に上司から労働組合の執行部に入るように言われて、小説の主人公と同じ教宣部長をさせられたんです。
  • ──
  • 2012年の前年といえば2011年です。この年の1月にデビュー作『盤上のアルファ』、10月には『女神のタクト』が刊行されています。作家と記者を両立されて、かなりお忙しい時期だったのではないのですか。
  • 塩田
  • だから最初は断りました。「三足のわらじをはかせるんですか?」と。教宣部長をやると最後に議案書を作らなくちゃいけないんですが、いまでも忘れません、この締め切りが6月30日で、2作目の『女神のタクト』の締め切り日といっしょやったんです。だからそのころはふつうに紙面用の記事書いて、議案書書いて、小説書いて、と滅茶苦茶しんどかったです。
  • ──
  • それでも引き受けた理由は何ですか。
  • 塩田
  • デビュー当時、講談社の担当編集からとにかく3冊は書き下ろしで出版しましょう、と言われていました。〝盤上〟は将棋、〝女神〟はクラシック音楽と、僕が取材経験のあった分野なんですね。会社で執行部に入れと言われたときは、ちょうど3作目のモチーフをどうしようかと考えあぐねていた時期だったんです。生半可なものでは通用しない、いままで小説に扱われたことのないような何か……。それを探していたんです。
    そんな悩んでいる僕のところに、労組のメンバーが再三口説きにくるわけです。でも僕は執行部入りを断り続けました。一方で、これを引き受けたらどんなことをしなければいけないのかってことを調べました。そうするといろいろなことがわかってきて、次第にこれには何か熱い鉱脈があるぞって感じたんです。それで最終的に「俺もひかれへん、やってくれ」と委員長に言われたとき「それじゃ、やります。でもそのかわり、これ小説にしますよ」って交換条件を出したんです。そうしたら「いい。書いてくれ」「いいって言いましたよ」「言った。書いてくれ」「わかりました」と。でも2、3年前ですかね、委員長だった元上司と飲む機会があったんです。新聞社の経営陣が『ともにがんばりましょう』について渋い顔をしていたことは知ってたんですが、委員長に「あれは書くべきじゃなかったな」って言われて、ひっくり返りそうになりましたね。まぁ、半分冗談やとは思いますが、「労担(経営者側の労務担当者)みたいなこと言わはるな」って。実際、出世したら、労担になる可能性もあるわけで。
  • ──
  • 作品で重要な登場人物のひとりである寺内委員長は、その方がモデルですか。
  • 塩田
  • そうです、と言っておいた方がいいのかもしれませんね(笑)。しかし、委員長として粘り強く耐えてくれたんです。いろんな職場の、いろんな人が、好き勝手言ってくるんですけど、耐えて耐えて意見をまとめきったのは確かです。そしていまの新聞業界ではまず出ない一時金のプラス回答も勝ち取った。そこはやっぱり凄い人だなと思います。
    物語の終盤のクライマックスで寺内委員長が経営者サイドに高らかに宣言します、「私には交渉を収拾する責任がある」。これって実際に委員長が言ったことばで、一言一句変えていません。僕は労使交渉の間、発言記録をパソコンに打ち続けるんですけど、これが飛び出したときは「かっこいい~」と思って、思わず手が止まったほどでした。でも、委員長も「どっかで言うたろ」ってあらかじめキメぜりふとして考えていたフシがある。だってそのあとの春闘でも同じこと言ってドヤ顔してましたから(笑)。
  • ──
  • 小説化を見据えての組合活動となったわけですが、経験してみての感想をお聞かせください。
  • 塩田
  • 「組合ニュース」っていう活動報告を作るのも教宣部長の仕事なんです。それまで、年間で大体150号くらいだったんですけど、僕はその倍の305号発行したんです。
  • ──
  • ほぼ日刊(笑)。
  • 塩田
  • そうですね。将来はこれが全部小説の資料になると思って作ったので、発行数も情熱的(笑)。結局集めた資料は段ボールひと箱分になりました。振り返ってみれば組合活動をやってよかったと思っています。それは小説にできたということはもちろんですけど、編集畑しか知らなかった僕が、広告や営業、印刷など、ほかの職場のことを知って、新聞社という組織を俯瞰することができたから。組織で働くということの意味、自分が所属する組織でどのように労働条件が決まるのか、労使の間に必要なもの、新聞社の現在と未来など、多くのことに気づかせてもらいました。そしてそれらは新聞労組に限ったことではなくあらゆる業種業界に共通するテーマでもあります。だからこそ小説にできたし、その意味でこの作品をすべての働く人へのメッセージとして読んでいただければうれしいです。
  • ──
  • 新聞社への入社動機を小説のネタ集めのためとおっしゃいましたが、それ以外に、記者経験が作家としての塩田さんに与えた影響はありますか。
  • 塩田
  • あります。徹底的に調べて書くということです。新人のころは、デスクに原稿をチェックしてもらうときに質問されまくるんです。「この被疑者は独身か?」「事故現場の見通しは?」とか。こっちは取材が浅いから答えられませんよね。そうすると「あかん、もう一回現場行ってこい」。これの繰り返しが新人時代なんです。そうして経験を積んで十分に取材することもできるようになるんですが、調べ上げたうえでパソコンの前に座ると、ことばと展開の選択肢の数がぜんぜん違うということに気がつくんです。
    取材した情報はことばであり、その多くの中から厳選されたことばによって原稿が構成される。濃密な文章というのは選ばれなかったことばの総量が一語一語に凝縮されているものだと思います。だから「設定はこんなんで、キャラクターはこんなんで、まあ書き始めればなんとかなるか」という感じで小説にとりかかるということはありません。必ず自分が納得のいくまで取材して、それからプロットを完成させた上でないと原稿の執筆はしません。こういうスタイルになったのは新聞記者を経験したからだと思っています。

「IN★POCKET」2017年3月号より一部抜粋 >「IN★POCKET」2017年3月号の詳細はこちら

  • 塩田武士

  • 塩田武士(しおた・たけし)1979年兵庫県生まれ。関西学院大学卒業後、神戸新聞社に勤務。2010年、『盤上のアルファ』で第5回小説現代長編新人賞、2011年、将棋ペンクラブ大賞を受賞。2012年、神戸新聞社を退社。2016年『罪の声』で第7回山田風太郎賞を受賞、「週刊文春ミステリーベスト10」第1位に選ばれた。
  • 『ともにがんばりましょう』塩田武士
  • ともにがんばりましょう

    塩田武士 定価:本体740円(税別) 軽快なのに濃厚。真剣なのに笑える。そして読み終えると胸が熱くなっている。すべての働く人の必読書。

    上方新聞に入社して6年の武井涼。極度のあがり症で一切の交渉事に向かないが、憧れの文化部への異動をえさに委員長に口説かれ、労働組合の執行委員を務めることに。恐る恐る足を踏み入れた世界は、強烈な個性の執行委員7人と経営陣がぶつかり合う怒濤の現場──。折しも会社が提案してきた「深夜労働手当引き下げ案」が社内で波紋を広げていた。手当の引き下げは回避できるのか。一時金の上積みは獲得できるのか。

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労働組合とは?
労働者が労働条件や雇用環境の維持・改善を目的に自発的に組織する団体。日本では企業ごとに作られていることが多い。『ともにがんばりましょう』の上方新聞のようにユニオンショップ制(管理職以外全員加入の制度)をとっている場合は、その会社に入社すると自動的に「組合員」になる。組合員の中から毎年、執行委員長や執行委員が選ばれ「執行部」が作られる。執行部は組合側の要求などを会社の経営陣に直接伝える役割を負っている。
上方新聞労働組合執行部《メンバー紹介》
  • 委員長
  • 寺内隆信(44)
  • 編集局。文化部デスク。10年前にも執行委員を経験。絶対的司令塔。
  • 副委員長
  • 万田源三(51)
  • 印刷局。高卒入社で印刷一筋。鈍感力を武器にタブーなく切り込む。
  • 書記長
  • 井川大輔(44)
  • 技術局。寺内の同期で委員長を補佐する仕切り上手。
  • 教宣部長
  • 武井 涼(28)
  • 編集局。社会部。しゃべりは苦手だが原稿のまとめは速く正確。
  • 賃対部長
  • 切下太郎(30)
  • 販売局。よく食べかなりの貫禄がある。癒し系の言動で敵を攪乱す
  • 財政部長
  • 中山明正(30)
  • 広告局。数字に強く常に冷静。正確なデータ分析で執行部を支える。
  • 青女部長
  • 川島冴子(32)
  • 編集局。経済部。気が強い美人。気分次第で敵も味方も振り回す。
でも、やっぱり「労働組合」ってよくわからないな~、という方にはこちら。
しかし

のような、放課後の部室にくつろぐ学生たちのごとき執行委員が、一変してその本領を発揮する場がある。それが団交=団体交渉だ。
団交とは何か。『ともにがんばりましょう』の上方新聞労働組合執行委員長の寺内はこう説明する。

「俺らの主戦場は年3回の経済交渉や。うちの会社では、冬の一時金を決める秋年末交渉が11月、基本賃金について議論する春闘が3月、夏の一時金は夏闘で6月に交渉する。もちろん金だけやない。職場環境改善のために、諸要求を提出して経営側と交渉する」

団交とは?
組合が経営側に賃金やほかのさまざまな要求について公的に交渉をする場。組合執行部と経営陣が一堂に会して行い、執行委員はその様子を「組合ニュース」などを通じて組合員に伝える。交渉が決裂すればストライキが実行されることもある。
この団交こそが、本書最大の読みどころ。その熱い戦いを一部紹介しよう。

■まずは会社がいかに苦しいか、先手を打って「不況宣伝」をしてくる経営陣。
 交渉慣れしている彼らに、新生執行部はなかなか歯が立たない。

(以下、文庫本から抜粋。一部省略しています)

「君たちの懸念はよく分かる。しかし、定期昇給がある限り人件費はどんどん増えていく。今の人数を保ったままでは、とても会社が成り立たない」
「我々は懸命に働いてきたわけであって、お荷物のような言われようは納得できません。それに定昇は個人のスキル向上に対する正当な対価ですよ」
「定昇凍結は今やどこにでもある話だ。給料が上がって当たり前という時代じゃない。そんな考えは捨ててくれ」

(P.166〜167)

「購読者数は横ばいの維持が精いっぱい。広告は下げ止まらず、設備投資が続いて四面楚歌の状態だ。つまり、入ってくるお金が減って、出ていくお金が増えるということ。分かるよな?」
経営が苦しいという内容なのに、どうしてこんなに態度が大きいのか。普通、逆ではないかと思いつつ武井は黙ってキーを打ち続けた。

(P.154)

■団交を重ねるにつれ議論は白熱──。

「そもそも職場に定員なんかないんだよ。今いる人数でやるしかない。
こっちだって無駄な業務は随分と外に放り出したよ」
「何か外注したもんがありましたっけ? 増えた業務ならいくらでも言えますけど」
「それは……、こう……、何かあるだろ!」

(P.169) * * *

「業務のアウトソーシングに関して、管理職の皆さんにヒアリングしてるんですよね。
その結果はいつ出るんですか?」
「もうすぐや」
「そしたら今月中には出ますよね?」
「ちょっと分からんわ」
「年明けたら干支変わりますよ」
「そら、そうやろ。何を言うてんねや君は。年内や。今年中には公表するから」

(P.232〜233) * * *

「電子新聞のビジネスモデルについても聞きたいんですけど」
「あっ、それはまだまだ」

シビアなやりとりの果ての、熱い思いあふれる結末を、ぜひ本書にて!
  • 『ともにがんばりましょう』塩田武士
  • ともにがんばりましょう

    塩田武士 定価:本体740円(税別) 軽快なのに濃厚。真剣なのに笑える。そして読み終えると胸が熱くなっている。すべての働く人の必読書。

    上方新聞に入社して6年の武井涼。極度のあがり症で一切の交渉事に向かないが、憧れの文化部への異動をえさに委員長に口説かれ、労働組合の執行委員を務めることに。恐る恐る足を踏み入れた世界は、強烈な個性の執行委員7人と経営陣がぶつかり合う怒濤の現場──。折しも会社が提案してきた「深夜労働手当引き下げ案」が社内で波紋を広げていた。手当の引き下げは回避できるのか。一時金の上積みは獲得できるのか。

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