『お父さんと伊藤さん』中澤日菜子

待望の文庫化& 映画化!【2016年10月8日全国公開!!!】

第8回 小説現代 長編新人賞受賞作!
『お父さんと伊藤さん』中澤日菜子

お父さんと伊藤さん

  • 思わず家とは何かを考えさせられた。──角田光代
  • 台詞の上手さは出色。──石田衣良
  • 安心して読める文章力。──伊集院静
  • 登場人物の体温を感じた。──杉本章子
  • テンポよく読めた。──花村萬月

34歳の彩は伊藤さんと暮らしている。彼はアルバイト生活をする54歳。ある日、彩のもとに兄から「お父さんを引き取ってくれないか」との依頼が。同棲中の彩は申し出を拒むが、74歳の父は身の回りの荷物を持って、部屋にやってきてしまった。伊藤さんの存在を知り、驚く父。それでも「この家に住む」と譲らない。その日から六畳と四畳半のボロアパートでぎこちない共同生活が始まった。ところが父にはある重大な秘密が……。誰にでも起こりうる家族問題を、笑いと緊張の絶妙なタッチで描くデビュー作!

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映画化によせて
中澤日菜子

書いているときも『よくモノを食べる小説になっちゃったなあ』と思っていた。
試写を見たらスクリーンのなかでも主人公の彩はじめお父さんも伊藤さんもそれはいろんなものを食べていた。
『食べることは生であり業である』と映画を見て改めて感じる。
揚げたてのとんかつをみなで囲む夕餉、一人かき込むコンビニ弁当、相手の目を見ないで食べる親子の朝食──
そのどれにも背景が歴史がそして『そうせざるを得ない』理由がある。そのありようを描くのがきっと小説や映画の仕事なのだろう。
そんな理屈抜きにしても『美味しい映画』になったなあと感服する。鑑賞したあとに、きっとご飯が食べたくなる映画。
そのときあなたはひとりだろうか。それとも友人や家族や恋人がそばにいて、いっしょに食事をしているのだろうか。
映画を見たあとに、映画を見たひとを見てみたい。なにをどこで誰と食べるのか、こっそり見てみたい。
そんな奇妙な妄想をいまわたしはふくらませている。

中澤日菜子 中澤日菜子(なかざわ・ひなこ)

1969年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。出版社勤務の後、劇作家として活躍。2007年「ミチユキ→キサラギ」で第3回仙台劇のまち戯曲賞大賞、'12年「春昼遊戯」で第4回泉鏡花記念金沢戯曲大賞優秀賞を受賞。'13年に『お父さんと伊藤さん』(応募時タイトルは「柿の木、枇杷も木」)で第8回小説現代長編新人賞を受賞し小説家デビュー。著書は他に『おまめごとの島』『星球』『PTAグランパ!』などがある。

「中澤日菜子 × タナダユキ  特別対談」中澤さんは、実はエキストラとしてこの映画に登場しており、タナダ監督とは撮影現場で会っている。試写を観た感動を胸に、この対談に臨んでいただいた。

あまりに脳内イメージとぴったり!

━━原作者として、中澤さんは映画をご覧になっていかがでしたか。

中澤 シナリオは準備段階のものから見せていただきましたけど、初めて通して観て、「なんで私が頭の中で描いていた絵を、監督が描けるんだろう!」とびっくりしました。いわば私が鉛筆でスケッチしていたものに色が入って、場所によっては立体的に盛り上がったりへこんだりして、単純にすごいなあ! と。

タナダ そう言っていただけると嬉しいです。生みの親である原作を書かれた方に観ていただくのが、いちばん緊張するので。

中澤 そういうものですか。

タナダ オリジナル脚本の場合でもそうですが、やっぱり原作物となると余計、いつも本当にこれでいいのかな、と思いながら作っているんです。あと、無尽蔵にお金があれば全部セットでやれるのですが、予算も時間も制限のある中から選び取っていかなくてはならないので、そういう風に言っていただけて、たぶん全スタッフ嬉しいと思います。

中澤 佐野のロケ現場にお邪魔した時に、おそらく美術スタッフの方から「中澤さんの頭の中にあるお父さんの家ってこんな感じですかね」と、ちょっと不安そうに聞かれたんです。「想像して書いたのと、ばっちり一緒です!」と言ったら、「よかったー」としみじみおっしゃっていました。小説では信濃の山奥の一軒家ですが、家の中の感じとか、庭の造作とか本当にぴったりで、みなさんの想像力とチームパワーをすごく感じました。

タナダ 場所などを探してくるのは「制作部」という部署の仕事なんですが、まず彼らはいろいろな地方に行って、貸して下さる物件を全部探して、それを絞り込むんです。

中澤 イメージ通りの場所を探すのは難しいですよね。

タナダ そうですね。うまい具合に空き家があるという訳でもなく、空き家があったとしても、火を付けていいよ、と言ってくださるところも少なくて(笑)。

中澤 じゃ、あの家は、じっさいに燃やしたんですか!?

タナダ 一部だけ火を入れています。たまたま、家の持ち主の方がすごく協力的で、家の中も燃やしてもいい、とおっしゃってくださる奇特な方だったんです。全焼させる訳ではなく防火対策もばっちりしますから、というこちらのお願いに対して、これぐらいの範囲だったら、と許可をいただき、ワンチャンスで臨みました。

中澤日菜子

中澤 ワンチャンスだったのですね。全員祈るような気持ちで……。

タナダ ええ、やり直しがきかないので。とはいえ、一回で完璧にはなかなかいかないので、CGを入れて仕上げていっています。あとは音ですね。映画は音も重要な要素なので、音を付け足して、形にしていった感じです。

中澤 あの柿の木は?

タナダ 柿の木も燃やしています。

中澤 私、そのシーンも見学したくて見学したくて、うずうずしていたんです。どうやって生木みたいなものを燃やすんだろうと。映画で観ると、けっこう派手にばりばりっと裂けて、それが落ちてきて迫力がありました。あれはやっぱり、最終的には人力ですか?

タナダ 人力ですね。せーの、みたいな(笑)。

中澤 おー!(笑)

タナダユキ タナダユキ

1975年生まれ。福岡県出身。'01年、初監督作品「モル」で、第23回PFFアワードグランプリとブリリアント賞に輝き監督デビュー。代表作に「百万円と苦虫女」('08)、「四十九日のレシピ」('13)など。TVドラマ・CM・PVなどの演出も手掛け、小説も上梓している。

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