講談社文庫

限界集落に赴任し、村の再生に奮闘する公務員の姿を描いたTBSの日曜劇場『ナポレオンの村』が、7月19日(日)から、いよいよ放送開始となる。

原案は、講談社+α新書の高野誠鮮著『ローマ法王に米を食べさせた男〜過疎の村を救ったスーパー公務員は何をしたか?』である。主演の唐沢寿明さんに、役者としての意気込みと、みどころを訊いた。


──唐沢寿明さん演じる主人公の浅井栄治は、舞台である限界集落に変革をもたらします。何かを変えるということには相当なエネルギーが必要で、自分に自信がなければできないことだと思います。この自信はどこからくるのでしょう?

 彼が自信家かどうかは、わかりません。ただ“とりあえず言っちゃえ”という人なんだと思います。言わないで何もやらないよりは、とりあえず口に出して言っちゃって、そうすることで何かが始まることを選ぶ。結果、失敗に終わったとしても、次も懲りずにとりあえず言っちゃえ、と(笑)。次から次へと提案が続くわけですから、すごいアイデアマンですよね。

 こういう人は、自分の得意なことと不得意なことを実はきちんとわきまえているのだと思います。でなければ、現実的で、効果的な提案はできませんから。


TBSテレビ日曜劇場「ナポレオンの村」
出演:唐沢寿明 麻生久美子 山本耕史 ムロツヨシ イッセー尾形 沢村一樹ほか

 芝居を例にとると、俳優が自分の得意不得意を知っていれば、不得意なシーンであっても何かしら対処のしようはあります。それがわかっていなくて、不得意なことに目をつぶってしまうと得意なことしか見えませんから、自己評価ばかり高くなってしまって、なぜ自分は他者から評価されないのか、ずっと苦しむことになります。そういう意味では、浅井は単なる自信家ではないと言えるでしょう。

──ムロツヨシさん演じる山田大地は市長のイエスマンで、役人らしいと言えば役人らしいです。その点、市長の意に反する浅井は役人らしからぬとも言えますが・・・・・・。

 僕の知り合いに、焼肉屋の主人がいまして。その人は、これまでにいくつもの店を立ち上げているんです。でも、店を始めてその店が有名になると途端に、自分は身を引いてしまう。そしてやめたと思ったら、辺鄙なところでまた始め、気がつくとまたそこにも行列ができている。そうなるとあとは人にまかせて、また次の店の準備にとりかかる。その繰り返しなんです。

 何かアイデアを思いついては、それを新しい店というカタチに創り上げていく、その過程自体が彼は好きなんですね。プロセスが大事で、結果には固執しない。僕は最高の生き方だと思います。

 浅井にも似たようなところがあるんじゃないでしょうか。役人だとか会社員だとかの職種とは関係がなくて、自分自身の持っている資質のままに生きている。頭の中でアイデアがひらめくと行動に移さないと気がすまない。たぶん、子どものころからずっとそんなふうにして育ってきたんじゃないかな。彼の最大の興味と言えば、自分のアイデアで村が変わってゆく、その過程にあるのではないかと、僕は感じますね。

 上からの指示を待つだけの仕事ぶりなら、その人が成し遂げたと胸を張って言える成果は得られないわけで、それはつまらないことだと思っているんでしょうね。先ほども言ったように、浅井は自身の得手不得手を理解している。自分に何ができるのかを知っている。だから口だけじゃなくて、次の行動を起こすことができるんだと思います。

──今から25年ほど前、竹下内閣で「ふるさと創生事業」といって全国の各自治体に1億円をバラまいて「村おこし」を助成したことがありました。そのほとんどが有効活用されなかったわけですけれど、唐沢さんは「村おこし」というとどんなイメージをお持ちですか?

 ある意味「ボランティア」に似ているのかな・・・・・・。つまり、携わる人の本気度が結果を左右する気がします。

 3・11のとき、被災地に行って炊き出しのボランティアをやった友人がいて、焼きそばを焼いていたら、テレビクルーを引き連れた某芸能人がやってきて、友人の隣りでその人も焼きそばを作り始めたんだそうです。で、ある程度でき上がったころには、もうテレビクルーと一緒にどこかに消えちゃってたって(笑)。

 その話を聞いて、自己満足のためだったり、悲惨なニュース映像を見て熱に浮かされたように参加したりするのでは、長続きしない。やっぱりその土地と人に関心があって、本気で力になりたいと思わないと、だめなんだと思いましたね。

 「村おこし」も、その村に対する愛情があるからこそ何度も挑戦し続けることができる。その点、僕の演じている浅井は、ちゃんと責任感を持って最後までやり遂げる人として描かれていると思いますね。


単なる善悪のドラマではない

──東京都出身の唐沢さんですが、田舎暮らしに興味はありますか?

 千葉県でロケをしていて、週に何回か行くわけですけど、日帰りで別荘にでも通っているような感覚でいますね。都内から1時間半くらいのところなのに、景色がまるっきり違うんです。空気はきれいだし、緑が多いし、本当に感動的。でも、暮らすとなると、話は変わってきます(笑)。

 若いころだったらいいのでしょうけど、この年齢では正直ためらってしまいます。というのも、すぐ近くに病院がない。救急車が来てくれるのかな、なんて心配になっちゃう。これも地方が抱える問題なんでしょうね。

 今、若手の俳優たちが役作りのために現地で生活しているんですが、一番近いコンビニが自転車で片道40分かかるそう。道に街灯もないから夜は真っ暗で、田んぼに落っこちそうで怖いから、夜間は外出しないんだそうです。僕にとっては、日帰りで来るからいいんでしょうね。いいところしか見えていないから。実際に生活したら、こんなふうにそれなりの苦労はあるんだと思います。

──暮らすことはともかく、環境の良さは実感されたんですね。

 みんな、イキイキと芝居をしていますね。(スタジオの)グリーンバックだったら、ああはならないでしょう(笑)。環境の良さが役者にもいい影響を与えていると思います。

 でも、炎天下での撮影もありますから、心配な面もあります。限界集落という設定なので、高齢の役者さんも多いんですよね。脱水症とか熱中症とか、これから暑くなると高齢者に限らず若手でさえ、気をつけなければいけないでしょうね。僕自身は大丈夫。学生時代、部活で水なんか飲んだら怒られたような世代ですから(笑)。その点は自信あります。

 ほかに心配いらない人といえば、谷隼人さんくらいかな。谷さん、超ギラついてますからね。目ヂカラがすごくて、やっぱりあの世代の俳優のバイタリティって半端じゃない。谷さんなら夜通し撮影しても倒れないと思います(笑)。

──春には田植えも体験されたとか。

 番組宣伝の一環として、麻生久美子さん、山本耕史さん、ムロツヨシさん、沢村一樹さんと一緒に、一枚の棚田で田植えをしました。キツかったぁ(笑)。地元の農家のおじさんが、苗を二本の指でつまんでとか、植える深さは2、3センチくらいでとか指導してくれて。裸足で田んぼに入りましてね、最初は泥に足を取られて歩くことも難しかったけど、そのうち慣れてきて楽しかったですよ。

 面白かったのは、指導してくれたおじさんに沢村さんが「この田んぼ、みなさんはどのくらいの時間で植えられるんですか」って聞いたら、「手で植えたことないからわからねえ、いつも全部機械でやるから」って、あっさり返されたこと(笑)。そのときは拍子抜けでしたけれど、考えてみれば、都会人には大変さがわからないだろうと言わず、あんなに正直に答えられる大人は珍しいと思うんです。感動的ですらありましたね。

──沢村さんのお名前が挙がりましたが、今回は市長の福本純也役で、浅井とは敵対する役どころですよね。

 市長は都市計画とか彼なりに発展的なことを考えていて、そこに現れるのが浅井なんです。それで、市長の考えとは真逆のことをしはじめる。市長の立場からしたら、迷惑な話ですよね。住み慣れた所ではないだろうけれど、山奥よりも病院や商店が近くにある町のほうが老人にとっては快適かもしれないし、いいことがいっぱいあるかもしれないんです。市長はそう思っているのに、ひょっこり現れた人間に「この村でまだ頑張りましょう」なんて言われても、何言ってんだって話ですよ。この物語は、単純に善人と悪人が敵対するような構図ではないんです。

──原案の『ローマ法王に米を食べさせた男』の著者高野誠鮮さんも、一部の村人に提案を反対されます。

 結局、考え方が違うだけなんだと思います。それでぶつかりあうんですけれど、福本市長は決して悪い人じゃない。だから、このドラマに悪人は登場しないんです。

──それでは視聴者に向けてメッセージをお願いします。

 昔は台詞に隠れた意味を持たせたりして、ちょっと考えさせるドラマっていうのがあったんです。それに比べたら、「どストレートなドラマ」ですね。観やすいと思いますよ。出演者もみんな楽しんでやらせてもらっています。そんな現場の雰囲気も伝わると思いますよ。いい話が多いし、きっと胸にじんわりほっこりくるはずです。

 だいたい、せっかくの日曜日の夜に、力んで観るようなドラマはみなさんも嫌でしょう?力んでいたら眠れなくなっちゃう。脱力して観てリラックスして、よく寝て、月曜日からそれぞれの職場や学校で頑張ってほしいですね。どうぞご期待ください。


撮影/中島 洸
構成/松木 淳(講談社文庫『IN☆POCKET』)


「ナポレオンの村」原案/高野誠鮮・著
『ローマ法王に米を食べさせた男 過疎の村を救ったスーパー公務員は何をしたか?』

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石川県羽咋市の市役所職員・高野誠鮮氏は2005年、過疎高齢化で「限界集落」に陥った農村の再生プロジェクトに取り組み、それが大成功を収めるまでの紆余曲折とアイデア満載、感動的実行力のプロセスを克明に記す。

高野氏は数々のユニークなアイデアを次々と繰り出し、そのアイデアを驚くべき行動力で実行していく。その結果、多くの若者を誘致し、農家の高収入化を達成! 

また、高野氏は農産物をブランド化するために、とてつもないことを思いつく。それは「ローマ法王に米を食べてもらう」という突拍子もないアイデアだった・・・・・・。

非常識と思われてしまうかも知れないことを恐れることなくアイデアを自由に発想し、それを躊躇なく確実に実行する、高野氏の仕事の流儀に大いに学ぶためのヒントがちりばめられた1冊!

主な内容:限界集落の惨状の本質を見抜く/上司にはすべて事後報告/60万円で限界集落から脱却!/神子原米のブランド化PR戦略/可能性の無視は最大の悪策/エルメスの書道家がデザイン/UFOで町おこしを実現!/腐らない米を武器にTPPに勝つ!/定年前に「国宝」を作る!/日本初の「寺の駅」誕生!


高野誠鮮(たかの・じょうせん)/石川県羽咋市教育委員会 文化財室長
1955年、石川県羽咋市生まれ。科学ジャーナリスト、テレビの企画構成作家として『11PM』『プレステージ』などを手がけた後、1984年に羽咋市役所臨時職員になり、NASAやロシア宇宙局から本物の帰還カプセル、ロケット等を買い付けて、宇宙科学博物館「コスモイル羽咋」を造り、話題になる。1990年に正式に職員となり、2005年、農林水産課に勤務していた時に、過疎高齢化が問題となった同市神子原地区を、年間予算わずか60万円で立てなおすプロジェクトに着手。神子原米のブランド化とローマ法王への献上、Iターン若者の誘致、農家経営の直売所「神子の里」の開設による農家の高収入化などで4年後に“限界集落”の脱却に成功し、「スーパー公務員」と呼ばれる。2011年より自然栽培米の実践にも着手。2013年より現職。