実在の公家大名が活躍する超人気シリーズ!

佐々木裕一

公卿の罠 公家武者 信平(四)

信平に出奔の疑いあり!?

公家出身の旗本・松平信平、もはや出世の道も断たれるか?

著者からのメッセージ

「公家武者信平」シリーズは昨年の10月に第1巻「消えた狐丸」が刊行され、おかげさまで好評をいただき、今年の2月15日には第2巻「逃げた名馬」、6月新刊では信平が故郷の京都に一時帰る第3巻「比叡山の鬼」を出させていただきます。

読者の皆様には、外を歩けば事件や面倒ごとに巻き込まれる信平ファミリーの喜怒哀楽と、嫡子福千代の成長を見守っていただきながら、おおいに楽しんでいただけることを願いつつ、これからも精進してまいります。

どうぞ末永く、公家武者信平をよろしくお願いいたします!

佐々木裕一

PROFILE

佐々木裕一(ささき・ゆういち)

1967年広島県生まれ、広島県在住。2010年に時代小説デビュー。「公家武者 松平信平」シリーズ、「浪人若さま新見左近」シリーズのほか、「あきんど百譚」シリーズ、「佐之介ぶらり道中」シリーズ、「若旦那隠密」シリーズ、「若返り同心 如月源十郎」シリーズなど、痛快な面白さのエンタテインメント時代小説を次々に発表している人気時代作家。

解説 細谷正充(文芸評論家)

 多数の文庫書き下ろし時代小説シリーズを抱え、大活躍をしている佐々木裕一だが、その代表作は松平信平を主人公にしたシリーズといっていいだろう。2011年に、二見時代小説文庫から『公家武者 松平信平 狐のちょうちん』を刊行。人気を獲得すると、すぐにシリーズ化されたのである。

 このシリーズは、公家から武士になった鷹司(松平)信平が悪を斬る、痛快時代エンターテインメントだ。公家・鷹司信房の四男の信平。庶子であるため門跡寺院に入るしかなかったが、坊主になるのを嫌い、十五の時に江戸に出た。徳川三代将軍・家光の正室になっていた姉の孝子を頼ってのことである。家光より五十石の禄高と、深川に土地と屋敷を与えられた信平。貧乏旗本として、新たな暮らしを始める。

 さらに、紀州藩主・徳川頼宣の愛娘の松姫と、目出度く夫婦になったふたりだが、千石の旗本になるまでは一緒に暮らしてはならないと頼宣にいわれてしまった。複雑な立場にある信平は、なにかと騒動にかかわることが多く、その渦中で剣を振るい悪を倒す。京にいたとき、道謙という師に厳しく鍛えられた信平は、鳳凰の舞という秘剣を使う剣豪であったのだ。やがて禄高も千石を突破し、松姫と一緒に暮らすようになった信平。福千代という一子を得る。頼もしい仲間も増えた。

 といった調子で進展していた「公家武者 松平信平」シリーズは、幕府転覆を企む神宮路翔を倒した、第16弾『暁の火花』で、一旦、完結する。しかし、すぐさま「公家武者 信平」シリーズとして、セカンド・シーズンが開幕した。出版社を講談社に変更し、2017年10月、『公家武者 信平 消えた狐丸』が刊行されたのである。

 物語は『暁の火花』の3年後から始まる。神宮路に攫さらわれた過去を忘れられない松姫が魘うなされることもあるが、幸せな日々を過ごしている信平一家。しかし剣客を狙う辻斬りが出没すると知り、持ち前の正義感がよみがえる。かくして信平は、愛刀の狐丸を手に、再び悪党を退治するのだ。そして第2弾『逃げた名馬』のラストで、さらに加増を受けた信平は、高家となる。将軍・家光からは、自分の代わりに宮中へ参内するよう頼まれた。

 これを受けて本書の第1話「比叡山の鬼」では、信平が上洛する。ところが京の都では、新たな騒動が起きていた。公家の朝姫が、何者かに攫われたのだ。しかも陰陽師・加茂光行の孫娘の光音の予知によりいち早く事態を知り、これを防ごうとした道謙が斬られ、重傷を負った。道謙より朝姫救出を依頼された信平は、光音の予知に従い、比叡山へ向かう。だが、公家らしき正体不明の一団も、朝姫を捜しているようだ。朝姫を攫った綾辻将仁と会い、意外な事実を知った信平。互いに想い合う、朝姫と将仁のために、真の敵に立ち向かうのだった。本書の前半は京都篇であるが、あの道謙が斬られるというショッキングな冒頭から、ストーリーはノンストップ。でも、このスピーディーな展開が、かえってストーリーを色濃いものにしている。一気読みの面白さを堪能できる最新刊だ!


『比叡山の鬼 公家武者信平(三)』解説より一部抜粋

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佐々木祐一 公卿の罠 公家武者 信平(四)

『神宮路との戦いの果てに信平への果たし状』

あの三年間、信平に何があったのか? 読者待望の特別書下ろし短編

「わたしに勝ったと思うな、信平」

 神宮路翔が血走った目を見開き、不気味に笑う。

「お前の大切な者を奪ってやる。思い知るがいい」

 神宮路が雲切丸を振り上げ、松姫を斬った。

「松!」

 信平は目覚めて顔を上げた。静寂に包まれ、日差しの中で輝く池があり、美しい庭が広がっている。

 昨夜眠れなかったせいか、ついうたた寝をしてしまい、悪い夢を見たようだ。

 信平は安心して息を吐き、月見台から下がった。

 奥御殿に渡り、松姫の部屋に行くと、福千代を眠らせたところだった松姫が、信平に微笑んだ。

 床から出て身なりを整えている松姫に、信平も微笑む。

「無理をしていないか」

「はい。今日は、気分がようございます」

「ふむ」

 信平はそばに座り、福千代の小さな手を触った。

「今朝、城から沙汰があった。しばらく登城を免除され、御役目も免ぜられる」

 松姫は信平に、悲しそうな眼差しを向けた。

「わたくしのために、ご出世を断られたのですか」

 信平は首を横に振った。

「麿が、そうしたいのだ。これからは、いつもそばにいる」

 松姫の手をつかみ、引き寄せた。

「疲れた顔をしている。昨夜も眠れなかったのであろう」

「福千代が夜泣きをしますので」

 だと、信平は分かっている。松姫は、信平と同じような悪夢に悩まされ、怯えて眠れないのだ。

 神宮路に連れ去られ、両国橋の上で殺されかけたことが昨日のように目の奥に映り、松姫を苦しめている。

「少し休め。麿がそばにいる」

「はい」

 明るい昼間に、信平の腕に抱かれて安心したのか、松姫は程なく、寝息を立てはじめた。

 信平は松姫をそのまま寝させてやり、愛する人と共にいられる幸せを噛みしめるのだった。


 こうしているあいだも、江戸市中では、老中・稲葉美濃守の主導による、神宮路一党の探索がおこなわれている。

 神宮路翔という巨頭を失い、核となる者もいない一党は、今や離散しているのだが、美濃守は残党狩りの手を緩めず、江戸のみでなく、関八州、京、大坂へと探索の手を広げ、神宮路に加担していた者と判明すれば、容赦なく処刑した。

 それにより、主だった者はいなくなったのだが、一部の者たちがふたたび江戸市中に潜伏しているという噂が流れ、町奉行所は南北総がかりで、身元が確かでない者のあぶり出しをはじめた。

 中には、下っ端でも剛の者がおり、役人を斬殺して逃げ、商家を襲って金品を奪うなどしたので、市中は一時、混乱の極みに達した。

 そこで、剛の者を取り押さえるべく、信平は先日美濃守に召し出され、五千石の役料と共に、与力五十騎、同心八十名を束ねる市中改役を打診されたのだが、

「ご期待に沿えませぬ」

 と、辞退した。

 美濃守は、これはおぬしと、おぬしの大切な家族の命に関わることだ、と、厳しい態度を見せたが、信平は応じない。

 あきらめない美濃守は、三日だけ考える猶予を与えようとしたが、信平は頑なに拒み、赤坂に帰ったのだ。

 このことは、本丸に詰める者から信平の舅である紀州大納言頼宣に伝わり、重く受け止めた頼宣は、ただちに将軍家綱に拝謁を求め、美濃守殿は、功労者である信平を殺す気かと訴えた。

 決定事項ならば、いかに頼宣が訴えても覆すことは叶わなかっただろう。

 信平を案じていた家綱は、美濃守に取り下げるよう申しつけたのだが、美濃守はその場に平伏し、一人、厄介極まりない男がいることを告げた。

 名を、神宮路明楽という若者は、神宮路翔の実の弟で、この者は名を変えて江戸に入り、二人の家来と共に身を潜めていた。

 驚いた家綱と頼宣に、すでに、名うての剣客を五名殺され、もはや信平のほかに、神宮路明楽を倒せる者はいないと、美濃守は訴えたのだ。

 だが頼宣は、神宮路明楽の名が世に聞こえていないことを不審に思い、問い詰めた。

 すると美濃守は、明楽が神宮路翔の弟だという事実を隠し、一党の中でも下っ端の浪人として潜伏しているからだと告げた。

 明楽の狙いはただ一つ、兄の仇である信平の命。

 頼宣は焦った。松姫がふたたび狙われるのではないかと思ったのだ。

 娘を案じる頼宣に、美濃守はこう言った。

「市中改役は、むしろ信平殿を守るためでございました。役を受け、配下の者たちと神宮路明楽を討つよう申したのですが、どうしても受けませぬ」

 頼宣が怒った。

「婿殿は何を考えておるのだ」

「もはや神宮路には関わりたくないと申し、聞きませぬ。屋敷に現れれば即座に成敗すると申しますので、やむなく帰しました」

 頼宣は言葉を失い、家綱は、信平を守るためにできるだけのことはいたせ、と、美濃守に命じた。

 日陰がある縁側に座っている信平は、目を閉じて、静かに思いをめぐらせている。美濃守に言われるまでもなく、この時すでに、明楽のことを知っていたからだ。

 何げない文に見せかけた果たし状が届けられたのは、登城をする朝のことだった。


 御屋敷に忍び込み、お命をちょうだいせんと思えば、容易くでき申した。なれど、それがしは兄、神宮路翔のごとき卑怯なまねはいたしませぬ。

 剣の道を志す者として、あなた様と剣を交え、兄の仇を打ちとうござる。

 明後日の明け六つ。目黒川新橋を渡った先にある荒れ寺にてお待ち申し上げる。

 一刻過ぎてもお姿なき時は、改めて、お命をもらい受けに御屋敷にまいる所存。

 その折は、奥方とお子のお命もちょうだいつかまつる。

 なお、決闘の場にはお一人でまいられるよう、申し上げる。

神宮路明楽


※この続きは2月15日刊行の講談社文庫『逃げた名馬 公家武者 信平(二)』をお読みください。

▼ 内容を読む

  • 公卿の罠 公家武者 信平(四) 最新刊

    公卿の罠公家武者 信平(四)

    信平の領地、岩神村に非常事態が連続する。青々とした稲が枯れ、代官は毒を盛られ、米盗みの疑いで村民が捕らえられる。隣村を預かる旗本が詫びの印として求めたのは、信平の隠居か鷹司家秘蔵の陶器だった。やむを得ず公儀に内密で領地へ赴く信平を更なる試練が襲う。「公家武者シリーズ」面白さ倍増の第4弾。

  • 比叡山の鬼 公家武者 信平(三)

    比叡山の鬼公家武者 信平(三)

    将軍の命により信平は久しぶりに上洛、帝から将軍家との縁を一層深めよとの激励を受ける。しかし、師匠の道謙は剣鬼に斬られ床に伏せていた。信平は道謙の孫の女陰陽師・光音の導きで、剣鬼・左門が潜むという比叡山に入る。立て続けに現れる刺客、信平を嫉妬する者の画策……時代小説の醍醐味溢れる第三弾!

  • 逃げた名馬 公家武者 信平(二)

    逃げた名馬公家武者 信平(二)

    信平の下城中、とんでもない暴れ馬が現れ街は騒然、逃げる馬を怪力の家臣・佐吉がやっとの事でつかまえる。馬の持ち主は無役の貧乏旗本、馬が暴れた真相は如何に? 特別短編「神宮路との戦いの果てに」収録。

  • 公家武者 信平 消えた狐丸

    公家武者 信平消えた狐丸

    公家から武家となった信平が、幕府転覆を目論む強敵を秘剣・狐丸で倒してから三年、愛妻・松姫、愛息・福千代との平穏な生活を送っていた信平だったが、命を狙われた松姫の心の傷は未だ癒えない。しかし、剣客を狙う辻斬りが出没していると聞いた信平の心に正義感が蘇る!

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