講談社文庫

累計220万部の大人気シリーズ最新作

真山仁「ハゲタカ2・5 ハーディ」 真山仁はじめてのノワール小説 世界を敵に闘う、もうひとつの物語

真山仁インタビュー

2008年から2013年にかけて本誌で連載された「ハーディ」が、大幅な改稿を経ていよいよ刊行される。本作は企業買収劇のみならず、パリや香港を舞台にした諜報戦まで展開されるはじめての試み。ミカドホテルの松平貴子と謎の中国人美女・美麗(メイリ)を主役にした意外な経緯、「ハゲタカ」シリーズの今後など、じっくり聞いた。

――今回文庫オリジナルとして刊行される『ハゲタカ2.5 ハーディ』は、小誌に連載された作品でした。連載のきっかけから教えて下さい。

真山 2008年に、私の文庫担当の編集者が「IN★POCKET」の編集長になったんです。それでそのお祝いに何か連載しようかと提案して。だからほんとうに軽い気持ちから始まった企画でした。

――具体的な構想はなかったんですか。

真山 ありませんでした。『ハーディ』連載開始のときには、これに先がけてシリーズ三作目の『レッドゾーン』(2009年刊)を「小説現代」で連載中でした。

「ハゲタカ」シリーズは1作目の『ハゲタカ』(2004年刊)も2作目の『ハゲタカII』(2006年刊『バイアウト』より改題)も、鷲津(わしづ/政彦)、芝野(健夫)、(松平)貴子という主要キャラクター3人が、接したり離れたりして物語が展開していきます。だから『レッドゾーン』でもその手法をとろうかと思ったんですが……。

――『レッドゾーン』には貴子は登場しませんね。

真山 一応、考えたんですよ。『ハゲタカII』では、貴子率いるミカドホテルは世界的リゾートグループであるリゾルテ・ドゥ・ビーナスの傘下におさまります。その設定から貴子をどういう立場で登場させようかと。

新刊の『ハーディ』では、ビーナスグループのミッションとして、貴子が老舗旅館の金色屋(こんじきや)の再生に乗り出します。これと同じようなことを、じつは『レッドゾーン』でさせようと考えていたんです。中国の国家ファンドが日本の自動車のトップメーカーを買収しようとする話なので、貴子に中国のリゾートホテルを再生させて、そのホテルの宿泊客に国家ファンドの要人がいたりすればメインプロットとの接点も見出せるかもしれない、場所は世界遺産のある蘇州――。

そこまで考えて、実際に蘇州へ取材に行ったんです。世界遺産の庭園はすばらしい、見事なものです。でもすばらしいのは特定の範囲内だけなんですね。隣接する街並みは、世界遺産を利用して金儲けしたいという欲望があからさまで、ド派手な看板の土産物店とかレストランが軒を連ねているわけです。ヨーロッパのスタンダードでいうところのラグジュアリーなホテルは、中国では成立しないなと。これで一気に〝貴子・蘇州〟案はしぼんでしまった(笑)。

マジテック再生という芝野関連のサブプロットもあるので、貴子のエピソードまで話を広げて物語をまわせるかなっていう懸念もあったんです。それで最終的に「『レッドゾーン』ではこれまで登場してきた主要キャラのうち、貴子か飯島(亮介)を切る」って宣言して何人かの男性編集者に意見を聞いたんです。そうしたらほとんどが「貴子をのこすべき」って言うんですね。その結果を事務所に持ち帰って報告したら、うちのスタッフは女性が多いんですけど「そんなのありえない」って言下に却下されて。

結局、『レッドゾーン』には貴子は登場させないことにしました。

真山仁インタビュー

――スタッフの方々が「ありえない」と思った理由は何だったのですか。

真山 貴子は男性読者には非常に人気があるんです。二十代の女性も「かっこいい」って憧れてくれる。でも、女性読者が30過ぎると途端に評価がかわるんです。〝男にすがって利用してウマく生きて、やたら自己弁護する嫌なオンナ〟って(笑)。「ハゲタカ」シリーズの登場人物のなかでも支持とアンチの振り幅がこれだけ激しいのは貴子だけですね。

そんな状況にあって、私は胸中秘めた野望を抱きます。貴子を嫌う女性読者がひれ伏すようなものを書いてやろうと。貴子がヒロインになったら面白い小説になるということをわからせようと。そんなときに「IN★POCKET」の連載企画の話があったわけです。

ちょうど2作目の『ハゲタカII』と3作目『レッドゾーン』の物語の間には時間的なすき間があるんですね。それならそこを埋めるスピンオフを、貴子を主人公に書こうじゃないかということになったんです。

――文庫版のタイトルにある「2.5」は、2作目と3作目をつなぐという意味合いなんですね。

真山 そうです。ビーナスグループの傘下にあるミカドホテルを、完全に貴子の手に取り戻す、という物語にしようと連載が始まりました。当時はいまほどインバウンドが注目されていなかったし、日本の観光立国としてのあり方とか、日本人はサービスの意味を履き違えているということを提示しようと思いました。

連載が始まり、ビーナスグループの壮絶な内紛劇を書きながら、ふと湧いてきた想いがあったんです。それは「このままでいいんだろうか」という自問です。

「ハゲタカ」シリーズは、言わば現代の〝戦国時代小説〟です。国盗り物語であり、盗った盗られたが国家レベルのスケールで展開する、そんなシリーズだと私は思っています。ストーリーにメリハリが利いて、エッジが立っていることが常に要求される。このまま貴子の成長物語だけで完結した場合、このハゲタカ流のメリハリが出せるのか、という疑問を抱いたんですね。

それで、貴子だけですすめていた物語に、美麗(メイリ)の視点も取り入れることを思いついたのです。

――『ハーディ』は上下巻の構成ですが、上巻は貴子、下巻はの多い中国人女性の美麗を中心に展開します。

真山 物語の中盤になると舞台がビーナスグループの本社があるパリに移ります。パリは、ノワール(暗黒小説)が似合うんですよね。それなら中国の女スパイであり、鷲津の右腕だった故アラン・ウォードの恋人で、貴子とも接点があった美麗に動いてもらおうか、と。

『ハゲタカII』でアランが殺され、その死の真相を『レッドゾーン』で書いて、私のなかではそれでアランのエピソードは完結していました。しかし読者から、『レッドゾーン』を読んだけどアランの死を納得できない、もっと詳しく知りたいという反応があったんです。そんなこともあって下巻では美麗の正体とアランの死の謎解きを中心にしました。

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真山仁

真山 仁(まやま・じん)

1962年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。読売新聞記者を経て、フリーランスとして独立。2004年、熾烈な企業買収の世界を赤裸々に描いた『ハゲタカ』(講談社文庫)でデビュー。NHKドラマ化、映画化された「ハゲタカ」シリーズのほか、『虚像の砦』『そして、星の輝く夜がくる』(いずれも講談社文庫)、『売国』『コラプティオ』(いずれも文春文庫)、『黙示』『プライド』(いずれも新潮文庫)、『海は見えるか』(幻冬舎)、『当確師』(中央公論新社)、『標的』(文藝春秋)、『バラ色の未来』(光文社)、『オペレーションZ』(新潮社)などがある。

  • 真山仁「ハゲタカ2・5 ハーディ」(上)
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    ハゲタカ2.5 ハーディ(上)

    愛するミカドホテルを守るため貴子が闘う
    世界的リゾートグループの壮絶なる買収劇へ!

    定価:本体640円(税別)

    日本を代表するクラシックホテルの日光ミカドホテルは、経営難に陥り世界的リゾートグループのリゾルテ・ドゥ・ビーナス傘下に。創業家の長女、松平貴子は、執行役員になって目標値を達成すればミカドを返すとビーナスから約束される。一方、謎多い中国の大富豪から救済案の提示が。陰謀の渦巻くなか貴子が闘う!

  • 真山仁「ハゲタカ2・5 ハーディ」(下)
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    ハゲタカ2.5 ハーディ(下)

    国際的リゾートグループを奪え!
    復讐の舞台はパリへ!
    前代未聞の金融サスペンス!

    定価:本体720円(税別)

    世界的リゾートグループのパリ本社で激しい権力闘争に巻き込まれる松平貴子。中国の富豪・将陽明と娘の美麗はあらゆる手を尽くして事態を混乱に陥れる。冷酷な買収者・鷲津の影もちらつき、中国内部の暗闘も表面化、物語はさらなる局面へ。ミカドホテルの運命は? 「ハゲタカ」から生まれた国際サスペンス劇!

既刊リスト

  • 新装版 ハゲタカ(上・下)

    定価:(上)本体800円(税別) (下)本体750円(税別)

    不良債権を抱え瀕死状態にある企業の株や債券を買い叩き、手中に収めた企業を再生し莫大な利益をあげる、それがハゲタカ・ビジネスだ。ニューヨークの投資ファンド運営会社社長・鷲津政彦は、不景気に苦しむ日本に舞い戻り、強烈な妨害や反発を受けながらも、次々と企業買収の成果を上げていった――買収者・鷲津の物語がはじまるシリーズ第1作。

  • 新装版 ハゲタカ II(上・下)

    定価:(上)本体690円(税別) (下)本体750円(税別)

    1年ぶりに海外放浪から帰国した鷲津政彦は、腹心の部下アランの不可解な死を知らされる。鷲津はアランが追いかけていた繊維業界の老舗・鈴紡を買収の標的に定めた。一方、鈴紡は元銀行員の芝野健夫を招聘し防衛と再生を図る。その裏に、芝野の元上司でUTB銀行頭取、飯島の思惑が潜んでいた。熾烈な闘いの勝者は? アランの恋人・美麗の存在が明らかになるなど、『ハーディ』に繫がるエピソード満載のシリーズ第2作。

  • レッドゾーン(上・下)

    定価:本体各730円(税別)

    『ハーディ』結末の一ヵ月後から物語が始まる! 莫大な外貨準備高を元手に、中国が国家ファンドを立ち上げた。若き買収王・賀一華は日本最大の自動車メーカー・アカマ自動車を標的にし、さらに鷲津政彦を誘い出す。追いつめられたアカマ自動車は、ハゲタカ・鷲津に「白馬の騎士」を求めた。圧倒的な資金力を誇る中国に乗るか、旧態依然とした日本を守るのか、鷲津が繰り出した一手とは?

  • ハゲタカⅣ グリード(上・下)

    定価:本体各770円(税別)

    リーマンショック直前、鷲津政彦はアメリカ経済を長年牽引した超巨大企業、アメリカン・ドリーム社の奪取を目論んでいた。その行く手に立ちはだかる敵は、圧倒的財力を持つ「市場の守り神」サミュエル・ストラスバーグ。食うか食われるか、日米の国境を越えた死闘が幕を開ける。強欲の坩堝に身を置き、闘い続ける鷲津。その胸に秘められた衝撃の戦略とは。

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