講談社文庫 > 風野真知雄 隠密 味見方同心 特設ページ > 3
鍋焼き寿司
「味見番付」版元の 味見師が太鼓判!

魚河岸の近くに、食いものの番付をつくる男がいる。もともと瓦版屋だったが、食い道楽が高じて番付をつくるようになった。
 近ごろは権威もついて、これで上位に入ると、店も大繁盛するようになるらしい。
 この最新の番付に載っていたのである。
 発行元は番付にも書いてあったのですぐにわかった。麻次といっしょにそこを訪ねてみた。
「この番付をつくったのは?」
 十手を見せて、波之進が訊いた。
「あっしです。味見師の文吉といいます」
 名乗ったのは五十前後、いかにも大食漢というだるまさんみたいな男である。
「味見師?」
 味見方は奉行所にあるが、巷に味見師がいるとは知らなかった。
「なあに、自称ですがね」
「番付のことで訊きたいんだがな」
「なんでしょう?」
「最新号に、鍋焼き寿司を載せていたな?」
「ええ、西の小結に抜擢です」
「ほんとに食ったのかい?」
「食いましたよ。あっしも噂を聞いたときは、そんな馬鹿なと思いました。それで出るという人形町界隈に張り込んで、来たところを捕まえたのです」(中略)
「どうだった、味は?」   

(『隠密 味見方同心(一) 鯨の姿焼き騒動』より)
ふんどし豆腐
ふんどしのように
奇妙に大きい豆腐が凶器?

「ここの殺しについて好きに調べていいと言われましてね、ちっと豆腐のことを調べたいんです」
「ああ、頭のわきにありましたね。本当にあれで殴ったのですかね」
「うん、そうみたいです」
 と、魚之進は経木を開いてみせ、
「これ、変わった豆腐でしょう」
「そうですか?」
「こんな豆腐、見たことありませんよ。これでも半分にしたのですが、ふつうの高野豆腐の三倍くらい長いでしょう」
「たしかに」

(『隠密 味見方同心(二) 干し卵不思議味』より)
天狗ちくわ
天狗の鼻のような 精力絶倫保証の滋養料理

 竹蔵の店は、鉄砲洲河岸を一本入った、湊稲荷がある通り沿いにあった。間口は二間ほどだが、奥のほうでつくるちくわ、蒲鉾、はんぺんを売っていて、夕方などは客が並ぶくらい人気があった。
 もともとここのちくわはうまいと評判だったが、一年前から売り出した商品が、凄い大流行になった。
 それが、〈天狗ちくわ〉である。
 ふつう、ちくわの穴は一つだが、これは穴が二つ開いている。大きさといい、かたちといい、鼻の穴のようで、長い天狗の鼻をかたどったというので、この名にしたらしい。
 かたちの珍しさに、
「これを食えば力がわき、天狗並の力が出る」
 という謳い文句は、少々ニンニクの風味があるため信憑性を増した。

(『隠密 味見方同心(二) 干し卵不思議味』より)
干し卵
浅草やくざの軒先に つるされたのは卵? 爆弾?

「あいつの家は浅草寺のすぐ近くで、そこをわしらが連日連夜ぴたりと張っているのだが、昨日、妙なものがあるのに気づいた」
「妙なものって?」
「あいつの二階の窓のところに、ちょうど干し柿みたいに卵がずらっと吊してあるんだ」
「卵が干してあるですって?」
「そう。一つずつ縄で丁寧に縛り、二個一束にして、軒下に干している。それが百本ほどあるかな」
 それだと卵が二百個ということで、かなりの量である。
「殻付きですか? 茹でたものをですか?」
「さあ。遠目にはそこまで判断できぬ」
 魚之進はすこし考えて、
「卵の殻になにか詰めてあるということは? 火薬とか詰めてあって、敵が来たら火をつけてぶつけるとか」

(『隠密 味見方同心(二) 干し卵不思議味』より)
シリーズ書籍情報
[書影]講談社文庫
『隠密 味見方同心(四)恐怖の流しそうめん』
9月15日刊行!
定価 : 本体610円(税別)
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死んだ兄の食べた、この世のものとは思えないほどうまい食べ物とはなにか?それが犯人を捜す唯一のてがかり。美味しそうな江戸中の食べ物を食べ尽くせ!
[書影]講談社文庫
『隠密 味見方同心(一)
鯨の姿焼き騒動』

定価 : 本体610円(税別)

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[書影]講談社文庫
『隠密 味見方同心(二)
干し卵不思議味』

定価 : 本体610円(税別)

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[書影]講談社文庫
『隠密 味見方同心(三)
幸せの小福餅』

定価 : 本体610円(税別)

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