もうひとつのあとがき

■お姫さまの相棒は……
宮乃崎 桜子

 丸くて小さくてふわふわもこもこ……。

 なんの役にも立たなくても、それどころか世話をする手間が増えるだけでも、かわいくて愛しくて側にいてほしい。

 ああ、すみません。これじゃ、ただのペット愛好家の心の声ですね。

 特異であるがゆえに孤独なお姫さまをヒロインにするにあたって、せめて心を慰めてくれる愛くるしい相棒がほしい。もちろん丸くてふわふわで、それがナウシカのテト(キツネリス)や、ソルジャー・シンのナキネズミ(あ、ご存じないですか)のように肩に乗ってくれたらステキ! そんな妄想のうちに生まれたのが「猫に似た、野生の白い小獣」ユキでした。ユキにも物語上の役割はあるのですが、いちばん大切なお仕事は「かわいいこと」です。

 気がつけば、肝心のヒロインは元気で楽天的……いいえ前向きで、さほど孤独な印象はなくて、もしかするとユキの存在に慰められているのはヒロインより作者なのかもしれません。

 私は女の子が好きなので、男が損な役回りで苦悩する話は書いていて楽しいのですが、女の子いじめは楽しくありません。女の子には幸せでいてほしい。

 なのに、自立したヒロインは私の思いをよそに、面倒な道を選び、失敗もするし後悔もします。でも、この子、思った以上に骨太で立ち直りが早いじゃありませんか。後悔しても、そこから先に向かおうと思い直せる強さがありそうです。元々が深窓のお姫さまなので、知識と判断力には難があるのですが、そんなダメ桃太郎姫を憎からず思って補佐してくれる頼もしい犬猿雉が揃えば、鬼退治も可能かもしれません。鬼には鬼の言い分もあって、退治するのが正解とは限りませんが。

 自らの足で歩き出したお姫さまはもうひとりぼっちではありませんが、それでも愛くるしい相棒にはいつまでも側にいてほしいと願っています。本来ならもっとオリジナリティあふれた姿であるべきこの小獣がやたらネコに似ているのは、ひとえに私がネコ好きで、6キロの愛猫を肩に乗せて原稿を書いていたせいです。

宮乃崎 桜子

一九九八年、『斎姫異聞』で第5回ホワイトハート大賞を受賞。受賞作はシリーズ化され「斎姫繚乱」シリーズと合わせて全29巻の大作となる

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