もうひとつのあとがき

■失ったものについての感じ
海猫沢めろん

『愛についての感じ』は、ぼくにとって思い出深い一冊だ。

 ここに収録されているのは、それぞれ「新潮」「群像」「文學界」「すばる」という別の文芸誌に掲載された、5つの短編である。当時、よく遊んでいた友人が亡くなったこともあって、そろそろ真面目に仕事しようかなと思い、たて続けに発表したのを覚えている。

 いわゆるオタク系のエロ小説でデビューしたぼくだが、同じことをするのが嫌なので、当時は(今も……)、毎回まったくちがうものを書いていた。SFを書いたり、エッセイを書いたり……そうこうしているうちに、いつの間にか純文学の世界に流れ着いた。

 純文学の世界というのはほとんどルールがないので、ぼくの性格に合っていたのだが、いざ「面白ければ何でもいい」ということになると、困ってしまった。

 どういうものを書けばいいのかわからなくて、試行錯誤しているときに、角田光代さんから「めろんさんは恋愛を書くといいと思う」というアドバイスをもらい、素直に従ってみた。この5つの短編のテーマが「愛」なのには、そんな理由がある。

 読み返してみると、かなり自分の体験をベースにした部分が多く、複雑な気持ちになった。6年前の作品だからずいぶん自分も変わっただろうと思ったのだが、最新刊の『キッズファイヤー・ドットコム』につながるアイデアがすでに書かれていた……毎回ちがうことをやっているつもりでも、変わらない部分があるらしい。

 短編をまとめて本にするにあたって、タイトルにけっこう迷った。そんなとき、たまたま川上未映子さんに会うことがあって、「テーマが愛なんだけど、どういうタイトルがいいだろう」と相談した。冬の夕暮れを歩いているうちに、なんとなく「愛についての……感じ?」というふうに決まったのを覚えている。

 文庫解説の夢眠ねむさんがタイトルを絶賛してくれたけれど、それはほとんど川上さんのおかげであるという事実を述べておきたい。感謝。

 この6年で、ぼくは多くのものを得て、さらに多くを失ってしまった。だけど小説を輝かせるのは、きっとその失ったなにかだと思う。だから、それを大切にしたい。

海猫沢めろん

2004年『左巻キ式ラストリゾート』でデビュー。著書に『明日、機械がヒトになる ルポ最新科学』『夏の方舟』『キッズファイヤー・ドットコム』など


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