もうひとつのあとがき

■ラブストーリーを超えて
鬼塚 忠

 二〇〇二年、ある映画のヒットを予感させた瞬間を今でもはっきりと覚えている。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭に行った友達のほとんどが、「韓国映画の『猟奇的な彼女』がホントによかった」と口を揃えて言うのだ。公開が待ち遠しくなった。

 翌年、クァク・ジェヨン監督のその映画は日本でも公開され、多くの観客を動員した。私も、劇場で観たが、世間の評価に違わず、最高のラブコメ映画だと思った。

 公開が終了しても口コミは続いた。レンタルになっても人気は衰えず、常に貸し出しランキング上位に位置していた。大手のレンタルショップの統計によると、『タイタニック』よりも借りられたそうだ。

 その翌年に公開されたクァク監督の次の作品『ラブストーリー』もまた完成度が高かった。以来、私はクァク監督のファンになった。いや、リスペクトの対象として、すべての作品を追い続けた。どれも他の韓流映画を圧倒する出来だが、正直、『ラブストーリー』を超えているかどうかはわからない。優れたクリエイターが比べられるのは、他人の作品ではなく、自分の過去の作品なのだ。

 人生とは面白いもので、そんな私に、クァク監督との仕事の話が舞い込んできた。十数年間、憧れの対象だった才能と仕事ができるのだという。日本を舞台にした次回作の原作を書かないかというオファーだった。だれがこんな壮大などっきりを仕込んだんだとさえ思ったが、チャンスを逃すわけにはいかない。私はふたつ返事で「やります」と答えた。

 ストーリーは、自分と同じ容貌の人を見たらどちらかが命を落とすという、ドッペルゲンガーの言い伝えを下敷きにしている。

 亡き恋人・川口ゆりが死の直前に遺した、「自分とそっくりな女性が流氷を見て泣いている」という言葉を確かめるため、主人公の西邑涼は、北海道へ行く。そこで亡きゆりとよく似た女性・最上亜矢と出会うが、亜矢もまた涼にそっくりの恋人・村山隆を事故で失っていた。やがて二人の間には特別な感情が湧き出てくる。クァク監督作品らしい幻想的な世界観を保ちつつ、冬の北海道を舞台にした美しいラブストーリーに仕上がったと自負している。

 映画では、やはりクァク監督の映像美と演出を楽しんでもらいたいが、ストーリーは、ぜひ原作小説をあわせてお読みいただくと作品世界を一層楽しんでもらえると思う。『ラブストーリー』を超える作品になっているかどうか、世間の反応が楽しみだ。

鬼塚 忠

1965年、鹿児島市生まれ。著書に『Little DJ』(映画化)、『カルテット!』(映画・ミュージカル化)、『花戦さ』(映画・ミュージカル化)など多数


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